ひきこもり・職場復帰のための就労支援&自立訓練|ミライワーク広島・川崎

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【シリーズ:体験記㉖】お金を使うことの罪悪感

2025.11.11

コンビニで新作スイーツを見つけたとき。SNSで気になる雑貨を見つけたとき。「買おうかな」という気持ちのすぐ隣に、「でも…」という声が現れる。この“でも”は、私の長い人生の中で根強く育ってきたもので、ちょっとやそっとじゃ消えてくれない――そんな私の気づきと練習の記録です。

1.幼いころから刷り込まれたルール

私は小さい頃から母に、何度もこう言われて育った。

「自分のためにお金を使うなんて贅沢だ」

「そんなことに時間をかけるのは無駄」

母はきっと、私を“ちゃんとした大人”に育てたくて言っていたんだと思う。無駄遣いせず、倹約して、時間も効率よく使える人に。でも子どもの私は、それをそのまま受け止めた。

だから、お小遣いをもらっても、使うことが怖かった。お菓子を買えば「そんなのに使うなんて」と眉をひそめられ、漫画を買えば「もっと役に立つものを買いなさい」と言われた。母の表情や声のトーンが、私にとっては罰みたいに感じられた。

2.大人になっても残る“声”

大人になった今も、何かを買うとき、その声が頭の中で再生される。

「そんなもの、何の役に立つの?」

「それより貯金しなさい」

それは母が実際に横で言っているわけじゃない。でも脳内の“お母さんボイス”が、自動で再生されるようになってしまった。だからこそ、コンビニスイーツひとつでも罪悪感が襲ってくる。

3.罪悪感の正体

罪悪感って、何かをした後に「これは悪いことだ」と思う感情だ。でも、何が悪いかの基準は人それぞれ。私の場合、その基準はほぼ母によって作られた。

このシンプルすぎるルールは、母の価値観そのものだった。それが良い悪いという話ではなく、単に母の中の“正解”だった。でも私は、それを自分の正解として疑わずに生きてきた。

4.スタッフさんとの会話で気づいたこと

自立訓練のスタッフさんにこの話をしたとき、こんなことを言われた。

「あなたが今感じてる罪悪感は、過去の“教え”の名残であって、今のあなたに必要なルールとは限らない」

その言葉を聞いて、ハッとした。そうか、“母の正解”は“私の正解”じゃなくてもいいんだ。

それに、子どもの頃と今とでは環境も状況も違う。自分で稼いだお金を、自分でどう使うかは、もう自分の選択で決められる。でも、頭ではそう思っても、体の反応はすぐには変わらなかった。

5.小さな実験:「許可」を与える練習

スタッフさんから提案されたのは、「自分に許可を出す」練習だった。

  1. 使う金額を小さく設定する(500円〜1,000円)

  2. 欲しいものを選ぶときに、「これを買ってもいい」と口に出して言う

  3. 買った後は「これは私を笑顔にしてくれた」と意識してみる

最初は半信半疑だったけど、やってみると効果があった。コンビニでお気に入りのプリンを買って、家でゆっくり食べながら「これでいいんだ」と自分に言うと、ほんの少しだけ罪悪感が薄まった。

6.罪悪感はゼロにならなくてもいい

正直、罪悪感は今も完全には消えていない。でも、罪悪感を感じながらも“それでもいい”と思えるようになったのは大きな進歩だ。

「罪悪感をなくそう」とすると、それができない自分を責めてしまう。だから私は、「罪悪感と一緒に生きる」方向を選んだ。そして少しずつ、その声の音量を下げていく。

7.母の声と私の声

最近は、お金を使うときに母の声が聞こえても、「ありがとう、心配してくれて」と心の中で返すようにしている。母が言いたかったのは、私を不幸にするためじゃなく、きっと私を守るためだったから。

ただ、これからは“私の声”もちゃんと聞く。

そうやって、自分の価値観を上書きしていく。

8.お金は“幸せの道具”にもなる

昔は、お金はただの“貯めるべきもの”で、“減ると怖いもの”だった。でも今は、お金は“幸せを作る道具”にもなると思えるようになった。花を一輪飾るだけで部屋の空気が変わるし、美味しいご飯は心を満たす。そんなふうに感じられるようになったのは、間違いなく自分の中で何かが変わった証拠だ。

9.終わりに

罪悪感は、過去の経験や環境から生まれることが多い。だからこそ、それを手放すには時間がかかる。でも少しずつ、自分のためにお金を使うことを許せるようになれば、罪悪感の重さは薄れていく。

私はまだその途中だけど、買い物の帰り道に「今日はいい日だった」と思えることが増えた。それはきっと、お金よりも大事な“心の変化”だ。