2026.2.9
「相談って、相手の時間を奪うし、迷惑をかける行為だ」
昔のわたしは、けっこう本気でそう信じていました。
誰かに頼るより、自分で抱えて、自分で解決する。弱音を吐かず、崩れず、ちゃんとやる。
相談しない自分は“えらい”。相談する自分は“だらしない”。
そんな価値観が、体に染みついていたんです。
でも今は、その考えがかなり危うかったと思っています。
なぜなら、相談しないことで、結果的に人に迷惑をかける場面があると痛感したからです。
しかも、本人(=わたし)が「迷惑をかけないように」と頑張れば頑張るほど、静かに状況が悪化していく。
まるで“親切なつもりでじわじわ事故る”みたいな感じです。
「迷惑をかけない努力」が、迷惑になるとき
相談しない姿勢は、一見すると立派です。
仕事でも生活でも、「自分で何とかします」と言える人は頼もしく見えます。
ただ、問題はその“何とか”が、いつも成功するわけじゃないことです。
たとえば、頭の中で考え続けているのに整理がつかない。
判断に迷って先延ばしにする。
不安が増えて視野が狭くなる。
結果としてミスが増える、対応が遅れる、周囲に説明が足りなくなる。
これ、本人は必死です。だからこそ「助けて」と言えない。
でも周りからすると、こう見えます。
・どこで詰まっているのか分からない
・進捗が読めない
・ある日突然、限界を迎えて倒れる(または爆発する)
・その後のフォローが急に発生する
つまり、「相談しない」は、周囲に“察して対応する負担”を押しつけることにもなり得るんですよね。
相談って、迷惑をかける行為どころか、むしろ被害を小さくするための事前連絡でもある。
そう捉えられるようになって、少し世界が変わりました。
相談には種類がある
わたしがつまずいていたのは、「相談」という言葉をひとまとめにしていたことでした。
相談って一つじゃないんですよね。
大きく分けると、少なくとも次の3つがあります。
1.感情の整理のための相談
まずはこれ。
「つらい」「しんどい」「怖い」「腹が立つ」「焦る」みたいな、感情が渋滞している状態をほどく相談です。
この段階では、解決策が欲しいわけじゃないことも多い。
むしろ、解決策を投げられると「いや、それは分かってるんだけど…」ってなりやすい。
この相談で欲しいのは、正論よりも安全に言葉を出せる場だったりします。
2.問題の整理のための相談
次は、状況を客観視する相談です。
「何が問題なのか」「どこから崩れたのか」「何が分かっていて、何が分かっていないのか」
これを一緒に棚卸しする。
感情の整理ができていないままだと、ここが難しい。
心の中では“全部が問題”みたいに見えてしまうからです。
でも、問題が整理されると、不思議と呼吸が戻ってきます。脳内が静かになる。
3.対処方法の検討のための相談
最後に、具体的にどうするかを考える相談です。
選択肢を増やす、優先順位をつける、リスクを見積もる、実行手順を作る。
ここでようやく「じゃあこうしよう」が形になります。
わたしは以前、相談=この3番だけだと思っていました。
だから、解決策が出せない状態で相談するのが怖かった。
「どうしたいの?」と聞かれて答えられない自分が、情けなく感じたからです。
でも実際は、1番や2番の相談は、答えが出ていなくて当たり前なんですよね。
そこから整えていくのが相談の役割だった。
「相談していい」は分かった。でも、やり方が分からない
相談への抵抗が少し薄れたあと、次にぶつかった壁があります。
それが、相談の仕方が分からないという問題です。
相談しようとすると、頭の中がぐちゃぐちゃで、何から話せばいいか分からない。
話し始めても感情が先に出てしまって、自分でも何を言っているのか分からなくなる。
結果、「うまく説明できなくてすみません…」で終わる。で、また相談が怖くなる。
このループ、地味に強いです。
そこでわたしが意識するようになったのが、感情と事実を区別して整理するということでした。
感情と事実を分けると、相談は一気に通じやすくなる
相談が伝わらないとき、多くの場合「情報が足りない」のではなく、情報の種類が混ざっていることが多いです。
たとえば、こういう言い方。
「もう無理なんです。全部がダメで、追い詰められてて…」
これは感情としては本当。
でも、相手は次に何をすればいいか分からない。
“無理”の中身が見えないからです。
そこで、まず分ける。
・感情:何を感じているか(不安、焦り、怒り、悲しみ、疲労など)
・事実:何が起きているか(期限、量、条件、発生した出来事など)
・解釈:自分がどう意味づけているか(「わたしは役に立ってない」「終わる」など)
この3つが混ざると、相談が煙になります。
分けると、相談が地図になります。
わたしは、相談前にメモを取るようになりました。短くていい。箇条書きで十分。
・事実:今週の作業量が予定の2倍になった
・事実:残業が続いて睡眠が削れている
・感情:焦りと不安が強い
・解釈:「遅れたら終わる」と感じている
・相談したいこと:優先順位のつけ方、調整の仕方、今すぐやるべき一手
この形にすると、相手は動けます。
「どこを削れそう?」「誰に振れる?」「期限交渉できる?」と、具体的な支援が出てくる。
相談は「決めてもらうこと」じゃない
もう一つ、わたしが誤解していたことがあります。
それは、相談=相手に決めてもらうこと、というイメージです。
相談すると、
「結局どうしたいの?」
「それはあなたが決めなよ」
と言われるのが怖かった。
でも今は分かります。
相談は、決断を丸投げする行為ではない。
相談は、自分が決断するために情報や視点を借りる行為です。
自分の頭の中だけだと、選択肢が3つくらいしか見えなくなる。
相談すると、選択肢が7つくらいに増える。
その中から自分で選べばいい。責任も、自分に残る。
「決めてください」じゃなくて、
「判断材料をください」
この姿勢に変わると、相談は一気に健全になります。
相談のハードルを下げる、具体的なコツ
最後に、わたしが実際に使っている“相談を軽くするコツ”をまとめます。
大げさな儀式にしないのがポイントです。
1.相談の目的を最初に言う
例:「感情の整理をしたい」「状況を整理したい」「対処の選択肢が欲しい」
2.事実を3つだけ箇条書きにする
長編大作は不要。相手の脳にも容量がある。
3.感情は短い言葉で添える
例:「正直、不安が強いです」「少し焦ってます」
感情は隠さなくていい。ただし主役にしすぎない。
4.“何をしてほしいか”を一言で言う
例:「優先順位の付け方を一緒に考えてほしい」
「話を聞いてほしい」も立派な依頼です。
5.結論は自分で出す前提で臨む
「最終判断は自分がする」と決めておくと、相談がぶれない。
相談は、自分と周りを守るための技術
相談は、弱さの証明じゃありません。
むしろ、崩れる前に手を打つための技術です。
「迷惑をかけたくない」から相談しない。
その優しさは分かります。わたしもそこからスタートしました。
でも、相談は“迷惑”ではなく、無理が広がる前に共有する行為です。
相談しないことで起きる大事故より、相談して起きる小さな手間のほうが、ずっと健全です。
そして何より、相談は「助けてもらう」だけのものではありません。
自分の状況を言葉にして、感情と事実を分けて、選択肢を広げて、最後に自分で決める。
その一連のプロセスは、確実に自分の足腰を強くしてくれます。
相談は、相手に答えを渡す行為じゃない。
自分が答えを出すために、情報と視点を受け取る行為。
そう思えるようになった今、わたしはようやく「相談していい」だけじゃなく、
「相談できる自分でいたい」と思えるようになりました。