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うつ病と心理療法

うつ病について

うつ病は、日常生活に強い影響が出るほど気分が落ち込み憂うつになる、何事にも意欲や喜びを持つことができ

なくなるなどの精神的な症状のほかに、眠れない、疲れやすい、体がだるいといった身体的な症状が現れること

のある病気で、気分障害の一つです。

 

社会生活を送るうえで、憂うつになったり、気分が落ち込む、やる気が起こらないといった感情の波はだれでも

経験することでしょう。人間関係が思うようにいかなかったり、仕事や受験で失敗したり、大切な人や可愛がっ

ていたペットとの別れなどが原因で、悲しくつらい気持ちになることはごく一般的な感情の変化です。そのよう

な落ち込んだ気分は、原因が解消されたり、気分転換をしたり、ある程度時間が経過することで次第に癒され回復していくものです。

 

しかし、うつ病の場合は悲しみや気分が落ち込む原因となる出来事がはっきりしなかったり、原因があったと

しても、通常その出来事に対する心的な反応と予測される状態よりはるかに強い症状が引き起こされたりします。また、たとえ原因となっていた問題が解決しても気分が回復せず、仕事や学校に行けなかったり動くことができ

なかったり、日常の生活に大きな支障が生じるので、治療が必要になります。

 

うつ病の症状の現れ方は人によって大きく異なります。動作が緩慢になって反応がにぶくなることや、些細な

ことで怒りっぽくなるといった行動の変化がおこることも少なくありません。また、さまざまな感情を感じに

くくなり、生きている実感がわかないといった症状が現れることもあります。さらに、何事もネガティブに捉え

てしまい自己否定的になったり、過度に自責的になったりすることもみられます。“死にたい”と思うようになり、実際に自殺企図や自殺を遂げるという結果をまねいてしまう場合もあります。

 

うつ病はストレスが原因になることが多いため、強いストレスがかからない環境で休養をすることが大切です。

たとえば、仕事の量が増ふえたことがきっかけとなった場合は仕事の量を減らしたり、自宅療養や入院治療が考

えられます。うつ病の治療の多くは、薬物療法と同時に心理療法(精神療法)を行います。心理療法は、患者さん

の話を傾聴・共感し、感情を言葉にすることで、気持ちを整理したり、考え方を修正したりするなど、心の状態

にはたらきかける治療法です。

 

カウンセリングについて

カウンセリングは、専門の知識や技術を持つカウンセラー(臨床心理士、公認心理師)と相談者との対話を通じて、相談者が自身の抱える問題に気づいたり、理解を深めたり、行動変容したりすることへのサポートが基本となり

ます。カウンセラーは相談者の話を遮ったり否定することなく、常に共感的な態度で受容します。

 

カウンセリングの基本的な原則として、「同意ではなく共感を」という考え方があります。極端な例でいえば、

相談者から「死にたい」と言われたとき、同意してしまったら本当に自殺してしまうかもしれないので、同意は

しません。ただ、「死ぬほどつらい」という気持ちにはしっかり共感する必要があります。否定するだけでは、

相談者はつきはなされたと感じますし、同情では相手の心に響きません。説得も効果はなく、「死んでほしくな

い」と言っても、そこに共感がなければやはり無意味なので、まずは相手の話をしっかり聞いて、共感すること

が必要です。

 

一般的には、相談者がカウンセリングの中で、新たな考えやこれまでとは違った見方に気づいたり、自己肯定感

を感じたり、とらわれていた考えから開放されたりするなど、自発的な変化や心の成長を促すのがカウンセリン

グの目的です。

 

休職者のカウンセリングの場合は、これまでの働き方、生き方を振り返る中で、その修正が必要になることもあ

るため、深く考えなければなりません。うつになった経緯、背景に、相談者の性格や物事の考え方、行動パター

ンなどが影響しているのはよくあることです。その場合、薬物療法と休養だけでは、休養中の症状が改善しても、

職場復帰後にまた同じことが起きてしまい、症状が悪化することもあります。症状を改善させるだけではなく、

性格や考え方などを見直し、環境調整することも回復、職場復帰には欠かせません。

 

カウンセリングでは、相談者はカウンセラーに自分の気持ち、状況を話し、カウンセラーは一切の否定や批判を

せずにそれを理解しようとして耳を傾けます。深い悩みや苦しみを語り、抑えてきた感情を外に出すことで、

精神的に落ち着くことができます、そのプロセスの中で、「わかってもらえた」「すっきりした」という経験

、そしてカウンセラーとの信頼関係の中で、直面している問題に取り組もうと思えます。このような経験を経て、自分の感情や思考を大切にする心が生まれ、自己肯定感や自信にもつながっていきます。

 

また、カウンセラーは理解者であると同時に、時に専門家として客観的な分析をします。違う角度から自分を

見ることで、これまで気づかなかった自分の側面を知ることができます。自分を客観視できるようになり、自分

の抱えていた感情や病気に至るまでの自分自身の考え方や行動パターン、環境要因などに気が付くことができます。

 

さらに、複雑な状況や感情を一つずつ取り上げて言葉にすることで、自分の考えや気持ちを整理することもでき

ます。最終的には、今後自分がどう働いていったらよいのか、どう生きていったらよいのか、ストレスにどのよ

うに対処していったらよいのか、自分をどうマネジメントしていくかということを、主体的に考えていけるよう

になっていきます。

 

このように、カウンセリングは自己成長や自己解決力を強化します。その際、カウンセラーは情報提供をする

ことはありますが、最終的な答えを探すのは相談者自身です。カウンセラーは、相談者が自分の問題に対する

自己理解や自己決定をするためのお手伝いをし、自己成長をサポートする役割を担っているのです。

認知行動療法について

カウンセリングの効果については、数々の実証研究でも確認されています。うつ病に関しては、数種類の技法に

よるカウンセリングの効果が示されていますが、とくに認知行動療法については、明確な効果があるとされてい

ます。また、認知行動療法は、症状の改善だけでなく、再発の予防にも寄与することが確認されています。

 

認知行動療法は、傾聴、受容、共感といった相談者を温かく受け止める心理療法の部分はそのままに、さらに

病気の原因となっている認知(考え)や行動の悪循環となっているパターンを見つけ出して、それをよい循環に変えていくことで、症状を改善することを目指すものです。人が不安定になったときに陥る思考に目を向け、現実と

どの程度食い違うかを検証して、思考の特徴を修正していくことで気持ちを楽にする方法です。

 

 認知行動療法にはさまざまな手法があります。個人の認知行動療法では、一般的に、相談者とカウンセラーが、一対一で話し合いながら、1回30~50分、合計12~16回のセッションで進めていきます。ワークシートを使って日々の気になるできごとやそのときに感じたことを記入して、カウンセラーなどと一緒に内容を振り返ります。

認知行動療法を続けていけば、自然と考え方の偏りに気づき、修正できるくせがつくようになります。そうする

ことで、少しずつ気持ちが楽になっていくのです。

 

 認知行動療法は性格をポジティブに変える心理療法だと思われている方もいますが、実はそうではありません。認知行動療法は、あくまで悲しいことは悲しいと正直に受け止め、あとで自分の認識と現実の差異を知ることで

「あのときの自分の考えは偏っていたんだな」と気持ちを落ち着けることができるものです。一般的に人から

ネガティブだと思われる性格があったとしても、それはその人の個性です。ですから、認知行動療法で性格が

変わることには期待せず、考え方や行動を修正して気持ちを楽にしてもらいたいと思います。

 

オープンダイアローグについて

医療の世界でここ数年注目されている方法論に「オープンダイアローグ」というものがあります。本人の意見を

否定せず、耳を傾けて検討することで、本人の病気を癒す手法のことです。薬が重視される時代の精神医学に

おいて、薬を使わず対話で治療するシステムは、人との距離をとることが求められ、直接人と話し合う機会が

奪われつつある現状においては、より注目されるべきものなのかもしれません。

 

オープンダイアローグは直訳すれば「開かれた対話」ですが、診察室などで患者(相談者)と二人きりで会話する

従来の精神療法(心理療法)とは大きく異なります。患者(相談者)とその家族、精神科医、臨床心理士(公認心理師)

や看護師といった10名前後の関係者のグループが、一か所に集まり、何度も対話を重ねます。急性期には毎日、

安定してきたら2~4週間に1度のペースで、症状が改善するまで行うことが多いとされています。

 

ポイントはこの時の対話を、あくまでも「対等」な立場で行うことです。こうした対話の結果として、患者

(相談者)とその周囲(家族や治療者)との関係性が変化し、それが一種の環境調整になると言われています。

オープンダイアローグが想定しているのは、家族関係を中心としつつ、症状によっては職場や学校との関係も

扱う、人間関係をめぐる質的な調整です。そして、オープンダイアローグが従来の家族療法と違うのは、患者

(相談者)や家族の目の前で、治療チームが対話の感想や治療方針について話し合い、その様子を患者(相談者)や

家族に観察してもらう場面を設けることです。その方が患者(相談者)は主体的に意思決定しやすくなるようです。

 

オープンダイアローグは、最初は統合失調症の治療として始まりましたが、うつ病、認知症、依存症、発達障害

などにも効果があるとされています。歴史学者で双極性障害を体験された與那覇潤さんは「心を病んだらいけな

いの?うつ病社会の処方箋」(斎藤環、與那覇潤著)の中で、次のように言われています。「心の病気でクリニック

に通い出すと、かならず途中で後悔するタイミングがある。言われるとおりにしてるのに、全然治らないじゃな

いか。(中略)そうなってしまったときどう乗り越えるのか。その手段が対話だと思う。疑問や違和感を言葉にし、ただしどちらも一方的に見解を押し付けることなく、コミュニケーションを続けること。問題が完全に解決しは

しないけど、でも少なくとも一人で思考の堂々巡りをしているよりは楽だから、もうちょっとこの関係を続けて

みようと思える」

 

オープンダイアローグは、ケアや治療の手法として発展してきましたが、システムや思想を指し示す言葉でも

あります。この「対話の思想」は対話の在り方を再定義します。この手法を学ぶことによって、対人支援の在り

方はもとより、日常における人間関係や家族関係も大きく変わっていくと思われます。

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