小さな心配事は誰にでもあるものです。
しかし、玄関のカギを閉めただろうか?と何度も確認しに家に戻ってしまう、仕事の資料にミスがないか確認に時間を取られ他の仕事が手につかないなど、日常生活や仕事に支障をきたす程の強迫行為に囚われている場合、「強迫性障害」かもしれません。
強迫性障害とは、自分でもばかげていると頭では思っても、一度浮かんだ考えが頭から離れず、同じ行動を繰り返し取ってしまうという病気です。
今回は、強迫性障害とはどのような病気か、原因は何か、強迫性障害を治療しながら安心して長く働くためのポイントを解説していきます。
[目次]
■強迫性障害とは?特徴や症状は?
■強迫性障害の原因は?何がきっかけで発症する?
■強迫性障害がある人の仕事での困りごと
■強迫性障害の治療法は?
■強迫性障害と上手に付き合いながら働くコツ
■強迫性障害とは?
「手が汚れているんじゃないか、と何度も手を洗ってしまう」
「玄関の鍵をかけただろうか、コンロの火はちゃんと消しただろうかと不安になって何度も家に帰ってしまう」
この様に、不安やこだわりによって日常生活や社会生活に支障をきたす病気が強迫性障害です。
■強迫性障害の特徴は?
全人口のうち1、2%の人が強迫性障害にかかると言われていますが、これは50~100人に1人の割合ですから、決して珍しい病気ではありません。学生時代から強迫観念を自覚していることが多く、長年苦しんでいる方も比較的多いです。
また他の精神疾患を合併しやすいのも特徴と言えるでしょう。
強迫性障害の方がうつ病を併発する割合は65%近くと考えられていて、その他不安障害、パニック障害、摂食障害などの合併もしばしば見られます。これは、強迫性障害によって生じる葛藤やストレス、疲労などと関連して発症していると考えられています。
■強迫性障害の症状は?
自分でも明らかに不合理である、そんな訳ないと思ってもその考えをやめることができない、頭からはなれない(強迫観念)、何度も同じことを繰り返してしまう(強迫行為)があります。
強迫性障害は、この強迫観念と強迫行為がセットで現れることが多いです。
〇強迫観念
嫌な考えや恐ろしいイメージ、思い出などが、自分の意思に反して何度も繰り返して頭に浮かびます。その内容が本人も不合理だとわかっていても、頭から振り払うことができません。エスカレートすると、仕事中でも考えないようにコントロールするのが難しく、業務に集中することができなくなります。
例えば、
・出勤する際に玄関の戸締りをしたか不安になり、鍵をかけていても記憶違いではないかと思って不安になる
・在庫の数を数え間違っていないか、書類のミスがないか過剰に心配になる
・歩いている時、お年寄りにぶつかってケガをさせるのではないかと不安に思って、必要以上に離れて歩く
〇強迫行為
上記のような「強迫観念」から生じた嫌なイメージや不安を、振り払うために繰り返し行う行為のことです。自分でも「やりすぎ」「ばかげている」と思っているのに、やめることができません。
本人も「なんで、こんなことをしているんだろう?」と思いながらも、この行為をすることで強迫観念から生じる嫌なイメージや不安が軽くなるので、何度も何度も繰り返し行ってしまいます。
・手が汚れている、細菌がついているという不安から何度も手を洗う
・鍵が閉まっているか、コンロの火を消したか確認するため何度も家に戻ってしまう
・書類のミスがないか何度も何度も確認しすぎて時間が取られる
・自分が誰かをケガさせたんじゃないかという不安が頭から離れず、事件として報道されていないかテレビや新聞を確認したり、家族や職場の同僚に聞いてしまう
■強迫性障害の原因は?何がきっかけで発症する?
強迫性障害は、世界保健機関(WHO)が、「経済の損失および生活の質低下に影響する10大疾患」の1つとしたほど日常生活への支障が大きい精神障害です。
脳内の神経伝達物質セロトニンの働きに異変が起こることに関係していると言われているものの、はっきりとした原因はわかっていません。
強迫性障害になりやすいのは、他のうつ病などの精神疾患と同様、「真面目で完璧主義、細かいことにこだわるという性格の人」だと言われています。
発症のきっかけは、仕事の業績不振、職場の環境の変化、過労、異性関係、妊娠や出産、育児や介護の悩みなど様々です。
■強迫性障害がある人の仕事での困りごと
強迫性障害があっても、症状が軽いうちはなんとか仕事をすることができます。しかし症状が重くなるにつれ、強迫行為(確認を何度も繰り返す等)によって時間の大半を費やしてしまい、仕事に大きな影響がでることがあります。
さらに、自分自身では処理できない不安を解消するために、職場の同僚や上司などを巻き込んで、強迫行為を手伝わせようとして周囲を疲弊させることもあります。
日本では、強迫性障害は性格の問題だととらえて精神科を診察していない人や、精神科を受診することに抵抗があって、仕事や日常生活に苦痛があっても我慢している人が多くいると考えられています。
強迫性障害は性格の問題ではなく、精神疾患です。適切な治療を受けることで改善が見込めるので、早めに受診してみることをお勧めします。
■強迫性障害の治療法は?
主に薬物療法(抗うつ剤)、心理療法(認知行動療法)を行います。
強迫性障害の症状を完全になくすことは難しく、日常生活に支障がないレベルまで治療する事が治療のゴールになります。
認知行動療法は、強迫性障害の原因となっている考え方の癖を少しずつ修正し、バランスの取れた考え方をする訓練をしていく方法です。完璧に症状を無くそうとこだわりすぎないことも治療のポイントです。
■強迫性障害と上手に付き合いながら働くコツ
ポイント1.医師の診断のもと治療を続ける
強迫性障害は治療開始後すぐに治る病気ではなく、症状が治まるまで根気よく治療をする必要があります。そして治療中は、薬の副作用で集中力の低下や、吐き気、眠気で生活リズムが乱れ仕事に影響が出たりすることもあります。
自分に合った薬に出会うまで時間がかかるかもしれませんが、副作用がつらく、内服をやめてしまうということがないように、医師と相談しながら治療を続けることが大切です。
薬と心理療法を併用することで強迫性障害の症状がコントロールできるようになれば、仕事中の強迫観念・強迫行為が徐々に抑えられます。これまで業務の大半を確認作業に取られていたのが、時間の短縮や集中力UPにつながり、働きやすくなります。
ポイント2.自分自身が病気について理解する
強迫性障害の症状は、コントロールできるようになるまでに時間がかかります。しかし、症状と上手く付き合いながら働いている人も多くいます。病気の治療をすることと同じくらい大事なことは、自分の病気について自分が理解することです。
自分の物事の捉え方に気付き、「考え方の癖で不安になり、この行動を取ってしまうんだ」と整理することが第一歩。そして上手に付き合うことができるようになれば、それを周囲の人にも伝え、理解してもらいやすくなります。
ポイント3.職場の人の理解を得る
強迫性障害は理解されづらい病気です。身体的障害ではないため、こちらから言わなければ周囲から気づかれにくいですし、強迫性障害のことをよく知らないのに偏見を持たれることもあります。病気のことを隠してなんとか仕事を続けているという方もいます。
しかし、強迫性障害を持つ人は確認作業を繰り返し時間管理が上手くいかないことも多いため、上司や周囲からの理解が得られないと仕事が成り立たないケースも多いです。ですから、なるべく入社の時点で伝えるようにしてください。
「全ての人に完全に理解してもらえなくても、まあしかたない。」そのくらい おおらかな気持ちで、病気のことを話してみましょう。自分のことを理解してくれる人がそばにいるだけで心が安らぐものです。
ポイント4.生活リズムを整える
食事や睡眠などの生活リズムが崩れると心身の調子も乱れます。特に睡眠不足はうつ病になるリスクを高めることが分かっています。同じ時間に起床・食事・就寝をし、生活のリズムを整えましょう。
できるだけ一定のスケジュールで生活することが疾患の安定化に効果的です。就寝前はカフェインなどの刺激物を摂取せず、入浴などによりリラックスした気分になるよう心がけましょう。日中に適度な運動をして、太陽の光を浴びることも効果的ですね。
ポイント5.職場復帰支援プログラムを活用してみる
職場復帰や転職活動に不安を感じている方は、リワークを利用してみるのもよいでしょう。
リワークとは、return to workの略語です。精神疾患を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を実施する機関で行われているプログラムです。復職支援プログラムや職場復帰支援プログラムともいいます。(引用:一般社団法人日本うつ病リワーク協会)
仕事に近い内容のオフィスワークや軽作業、復職後に精神疾患を再発しないための認知行動療法、SST、アサーションなどさまざまなプログラムが行われます。
休職になった時の働き方や考え方を振り返り、自分の気質やコミュニケーションの傾向を認識しトレーニングで改善することで、適切な職場復帰と症状の再発を防止することが狙いです。
リワークプログラムは医療機関をはじめ、地域のリワークセンター、障害者支援センターなどで受けることができます。施設によって費用は変わりますが、自立支援制度の対象のため自己負担は軽減されますから、気軽に問い合わせてみてください。
■まとめ
強迫性障害とは、自分でもばかげていると思いながらも、一度浮かんだ悪いイメージが頭から離れず、同じ行動を繰り返し取ってしまうという精神疾患です。
治療を始めた頃は症状のコントロールが難しいかもしれませんが、治療が進んでいくと、症状が落ち着いて行くとともに、自分でも症状がでるタイミングを把握できるようになってきます。ですから、ある程度時間をかけて病気と付き合っていこうという気持ちが大切になります。
まず自分が病気のことを理解し、周囲の人からの理解を得ることができれば、働きやすい環境になっていくことでしょう。長く働くことが難しいと感じる場合、福祉サービスを利用してみるのもよいでしょう。自分らしく働くための足掛かりにしてみてくださいね。