統合失調症という病名は少しずつ知られてきてはいますが、「うつ病」などと比べ、まだ多くの方に認知され
ているとは言えない疾患です。統合失調症は妄想・幻聴などが特徴的な病気で、自分自身では病気だと気づか
ない(病識がない)場合もあります。
統合失調症は思春期から30歳までに発症する方が多く、全体の70〜80%を占めます。ですから、中には会社
員として働く中で発症して休職・退職している方もいるかもしれませんが、若くして発症したため就労経験が
なく、就職活動や安定した就労に困難さを感じている方も多いでしょう。
「統合失調症と上手に付き合いながら働きたい。」と思っている方や、就業を願う統合失調症の家族を持つ方に
ポイントを解説します。
[目次]
■統合失調症とは?こんな症状が見られます。治療方法は?
■統合失調症があると働くことは難しい?
■面接を受けるときに気を付けること
■統合失調症と付き合いながら会社で長く働くための3つのポイント
■統合失調症とは?こんな症状が見られます。治療方法は?
1.統合失調症とは?
統合失調症は、考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続く精神疾患で、その原因は脳の機能にあると考えら
れています。発症の原因は実はまだよく分かっていませんが、100人に1人程度がかかる一般的な精神疾患です。
幻覚や妄想により誰かに監視されている、悪口を言われているなどのネガティブな思考になってしまい、コミュ
ニケーションを取ることが億劫になります。
また、判断力や記憶力、集中力が低下してしまうので、新しいことを覚えるのが難しくなったり、集中できなく
なったり、優先順位をつけて計画を立てることができなくなったりするので、判断力の必要な仕事に就くのが難
しくなります。
2.こんな症状が見られます
このような症状のある方は統合失調症の可能性がありますので、「もしかして自分の症状は統合失調症かもしれ
ない」と思った方は、少しでも早く専門医の診断をお勧めします。
・妄想…「テレビで自分のことを話している」「ずっと盗聴されている」など、事実でないことや理屈に合わな
いことでも信じてしまう。
・幻覚…周りに誰もいないのに悪口が聞こえる(幻聴)、ないはずのものが見える(幻視)。自分を攻撃するよ
うな幻覚が多いが、単に自分の独り言やアドバイスのような攻撃性のないものもある。
・思考障害…思考がまとまらず、考えや行動に一貫性がなくなる。会話に脈絡がなくなり、何を話しているのか
分からないこともある。
これらは「陽性症状」といい、主に初期に現れる症状です。
その後、意欲の低下や無気力、感情が乏しくなるなどうつ病のような「陰性症状」が起こります。
3.治療法は?
統合失調症の治療は主に薬物治療と、リハビリテーションを行う心理社会療法を組みあわせて行います。完治
は難しく、治療を止めてしまうと再発し、重症化しやすい病気と言われています。ですから、「症状をコント
ロールしながら普通に生活をすること」を目標に治療していきます。
治療にどのくらいの時間を要するかには個人差がありますが、急性期・休息期を過ぎて回復期に入ると生活を
楽しむ余裕も出てきます。ただ、自己判断で薬の量を減らしたり中止したりすることは、再発を誘発して重症
化の危険を高めます。生活習慣病のように気長に付き合っていくつもりで、薬を飲むことをやめる、薬の量を
減らすなどについては、主治医とよく相談して決めてください。
■統合失調症があると働くことは難しい?
結論から言うと、統合失調症の症状を薬物治療でコントロールしながら働くことは可能です。実際、障害のある
方を対象とした障害者枠のほか、一般就労で働いている人もたくさんいます。
ただ、統合失調症の治療が進み回復期になっても疲れやすさの症状や記憶力・判断力などの機能低下の症状が
残るケースも珍しくありません。頑張っているのに、同僚や上司からやる気が無いと勘違いをされてしまったり
職場の他人の視線が気になって業務に集中できなかったりというケースが見られます。
また、幻覚や妄想の症状が起こると、「同僚が自分の悪口を言っているから仕事に行かないほうがいい」「遠く
で誰かが自分を笑っているから会社を辞める」「通勤中幻聴が聞こえて家に帰った」といった、周りが理解しづ
らい行動を取ってしまうことがあります。
ですから統合失調症の方が仕事を探して働くときには、薬の治療を怠らないなどの体調管理と、周囲の人に症状
を説明し、理解しておいてもらうことが大切です。
■面接を受けるときに気を付けること
統合失調症は認知度が高まっている病気ですが、全ての採用担当者が統合失調症について詳しいわけではあり
ません。また同じ統合失調症と診断されていても、人によって症状の出方や程度の重い・軽いなど異なるため、
その人に適した仕事内容・就労時間が異なります。
面接時には自分の症状を会社側に伝え、定期的に通院していること、突然休んでしまう可能性があることも話し
ましょう。「病気のことは話したくない」という方もいるかと思いますが、周囲からの理解を得ることも仕事上
大切なことです。
また、一人での就職活動・転職活動・職場復帰に困難さを感じている方は、後ほど記載する自立訓練事業所や
就労移行事業所などに通うこともおすすめです。一人一人のペースに合わせた社会生活を送るためのプログラ
ムや、就労に向けた実践的なトレーニングをサポートしてくれます。
■統合失調症と付き合いながら会社で長く働くための3つのポイント
ポイント1.専門医のもと治療を続ける
統合失調症は再発しやすい病気です。症状が落ち着いても長期にわたって治療を続ける必要があり、治療を中断
して再発を繰り返すと入院が必要になる・薬が効かなくなる・精神機能がさらに低下する恐れがあります。
再発は大抵同じ様なパターンで始まることが多いと言われ、家族が気づきやすい再発サインには次のようなもの
があります。
・不眠、イライラ、食欲減退
・うつ状態でぼーっとしている
・そわそわして落ち着きがなくなる
・突然新しい仕事をしようとして支援機関への通所を止める …など
「いつもと違うな」と家族が気づいて、早めに専門医を受診することが再発防止につながります。そして、統合
失調症の方の自己判断により薬の量を減らしたり中止したりすることは、再発を誘発して重症化の危険を高めま
す。薬の量を減らすなどについては、主治医と必ず相談して決めてください。
ポイント2.自分にあった職場を見つける
統合失調症と診断された方に向いているのはどんな仕事でしょうか?統合失調症の方は、幻覚や幻聴の症状から
人とのコミュニケーションに不安を感じる方が多いようです。そのため、販売、飲食店での接客など人を相手に
する仕事を選んでしまうとストレスを感じ、症状が悪化してしまう原因になります。
症状が治まっても判断力や記憶力が低下することがあるので、同じ作業をマイペースに繰り返すような仕事なら
長く続けやすいでしょう。倉庫や流通センターで商品の検品やピッキングを行う軽作業、ビルやショッピングセ
ンターの清掃、工場でのライン作業などが向いている仕事の例として挙げられます。
自分だけで仕事を探そうと思うと心理的にも身体的にも負担になります。ですからハローワークや人材紹介会
社(障害者専門の転職エージェントなど)を活用するのもよいでしょう。
ハローワークには障害者専門の窓口があります。また、近年障害者雇用の増加から障害者専門の転職エージェン
トなども存在しています。障害者の積極的な採用を行っている会社の求人に応募することができ、基本的に無料
で仕事を紹介してもらえるので積極的に利用してみましょう。
ポイント3.自立訓練プログラムで社会生活を送る自信をつける
「生活のリズムが作れない」「働くことに自信が持てない」「統合失調症の症状があり仕事が長続きしない」と
いうような悩みがある方を対象に、民間・医療機関・公的機関では様々な施策やサービスを行っています。
例えば、自立訓練は精神疾患を持つ方などを対象に、日常生活面での自立支援や就労自立支援まで幅広いトレー
ニングを受けることができます。一人一人のペースに合わせて、就労に向けたプログラムも用意されており、
仕事に近い内容のオフィスワークや軽作業、認知行動療法、SST、アサーションなど自分に合ったものを選択
できます。
自立訓練で自分の症状の特性を理解し、健康管理の方法を身につけてから、就労移行支援で就職に必要な能力の
訓練を受ける方もいます。施設によって費用は変わりますが、自立支援制度の対象のため自己負担は軽減されます。病気と付き合いながら仕事を長く続けられるよう、相談員がサポートしてくれますから気軽に問い合わせて
みてください。
■まとめ
統合失調症とは、何らかの理由で脳の機能が低下し、思考や行動をまとめるのが難しくなる病気です。
うつ病のような無気力、意欲の減退も起こりますが、妄想や幻覚が起きるのが特徴的です。そのため、職場で
同僚が自分の悪口を言っている、盗聴器を仕掛けられている、といった実際にはないことを信じてしまい、仕
事によっては長く働くことが難しいケースもあります。
統合失調症の方でも治療をしながら働いている方は沢山います。できるだけ多くの人とコミュニケーションを
取らなくてもよいマイペースにできる仕事を選び、また薬物治療は必ず続けるようにしましょう。統合失調症は
再発しやすい病気であることから、勝手な判断で薬を止めたり、無理をしすぎると症状が悪化してしまう恐れが
あります。
統合失調症がありながら働くことに難しさや不安を感じているのなら、民間・医療機関・公的機関では様々な
障害者を支援する施策やサービスがありますから、積極的に利用し、安定した仕事を長く続けるための訓練を
受けてみるのも有効でしょう。