芸能人や有名人も公表するようになり、「大人の発達障害」という言葉は認知度が上がっています。
注意力に問題が生じる・落ち着きがないなどの特徴がある「注意欠陥・多動症」(以下、ADHD)は、成人の3~4%が持っていると言われ、診断を受ける大人が増加しています。
ADHDの名前は知られていても、仕事上での困りごとはまだまだ広く理解されているとは言えません。ここでは、ADHDの症状と仕事の困りごと、そしてADHDの方が向いている仕事と働きやすい環境を作るための工夫を解説していきます。
[目次]
■注意欠陥・多動症(ADHD)とは?特徴や治療法
■注意欠陥・多動症(ADHD)の人が向いている仕事は?
■注意欠陥・多動症(ADHD)の人が働きやすい環境を作るための5つのコツ
■注意欠陥・多動症(ADHD)とは?特徴や治療法
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ADHDは「発達障害」の一種です
発達障害とは、幼少期からの発達がアンバランスで、脳内の情報処理に偏りが生じている状態のことです。ある特定のことには非常に優れた能力を発揮する一方、ある分野は苦手といった特徴がみられます。
誰にでも得意なことと苦手なこととはあるものです。ただ、発達障害がある人はその差が非常に大きいため、生活や仕事に支障が出やすいのです。
発達障害は行動や認知の特徴によって、主に次の3つに分類されます。
1.自閉スペクトラム症(ASD) 2.注意欠陥・多動症(ADHD) 3.学習障害(LD)
今回取り上げる注意欠陥・多動症(ADHD)も発達障害の一種です。
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ADHDの特徴
では、ADHDの特徴はどんなものでしょうか?ADHDには、主に「不注意」による特徴と、「多動性・衝動性」による特徴があります。
(子供のADHDも「不注意」「多動性・衝動性」の二つの特徴を持ちますが、大人になるにつれ特徴の現れ方は変化していきます。ここでは、大人のADHDの特徴について解説していきます)
大人のADHDによくみられる特徴1…不注意
・不注意によるミスが多い
・忘れ物が多い
・締め切りに間に合わない
・注意力が散漫(得意なことを除く)
・時間の管理が下手、仕事の段取りが苦手
・整理整頓が不得意、備品を紛失する
大人のADHDによくみられる特徴2…多動・衝動性
・落ち着きがない
・貧乏ゆすりなど、目的のない動きが多い
・おしゃべりが多い、不用意な発言をしてしまう
・無意識に人を傷つけるような態度を取ってしまい、人間関係のトラブルが多い
・転職を繰り返してしまう
ADHDの人は、物事により得意・不得意はあるにしろ、日常生活自体は問題なく送れるものです。
しかし仕事においては負う責任も大きくなります。特に仕事で問題になりやすいのが、〈不注意〉による仕事のミスです。ミスをしてはいけないと頭で分かっているのに、なかなか治すことができないのは脳の機能が原因であり、必ずしも性格によるものではありません。しかし、責任感が強すぎるADHDの方は、「私は普通の人ができることができないんだ」と自信喪失に陥りやすいといわれます。
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ADHDには2つのタイプがある〈のびた型・ジャイアン型〉
医学博士である司馬理英子氏は、ADHDを「のび太型」「ジャイアン型」という2つの症状に分けて説明しています。
のび太型(不注意優勢型)
一見落ち着いた性格に見えるが、気が散りやすく、仕事や会議、読書中でも「心ここにあらず」で、相手の話をきちんと聞けないタイプ。
ジャイアン型(多動・衝動性優勢型)
上司に相談なしに勝手に行動してしまうことがある。また、気づかぬうちに周囲を傷つけるような発言を考えなしにしてしまうので、周囲から自己中心的で社会性がない人と誤解されやすい。
・アスペルガー症候群との違い
大人の発達障害というと「アスペルガー症候群」も一般的に知られている障害です。アスペルガー症候群は自閉スペクトラム症(ASD)に分類され、ADHDと同じ発達障害の一種です。
アスペルガー症候群の方は他者とのコミュニケーションが苦手で、相手の気持ちが汲めず人間関係の構築が難しいと言われます。ではアスペルガー症候群とADHDはどう違うのでしょうか?
人間関係がこじれる原因として、「相手に怒られているけど自分の何が悪いのか理解できない」というのがアスペルガー症候群の人に良くある状況です。人の気持ちをイメージするのが不得意で、空気を読む必要性が理解できずあえて読まないのだと言います。
一方ADHDの人はというと、「相手が怒っている不穏な空気を察し、自分の過ちが分かっていても、なかなかそれを直すことができない」ことが多いです。
他にも、興味を持つ範囲が狭く、こだわりのあることには夢中になる特徴は両者に共通しますが、アスペルガー症候群は同じ動作を永遠と繰り返してしまう癖があるのに対し、ADHDの人にはそのような癖はありません。
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ADHDになる原因は?
現在ADHDの原因はまだ特定されていませんが、主に脳の前頭前野と腹側線条体という部分の障害ではないかと考えられています。子供の頃から脳の発達が均一ではないため、得意な分野と・不得意な分野が生まれます。
他の発達障害にも言えることですが、これらは「脳の特徴」であって病気ではありません。治療をして克服するものというより、「自分の取り扱い説明書」を作るようなイメージで、寛解に向け上手に付き合っていけるとよいでしょう。
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受診は精神科や心療内科へ
18歳以上の人がADHDの診断や治療を受ける場合は、精神科や心療内科を受診します。実際の治療には、主に薬物療法と、心理社会的治療の2つがあります。
しかし、全ての病院で診断ができるわけではありません。発達障害を扱う医療機関は限られており、さらに大人の発達障害が診断できる医療機関は少ないのが現状です。発達障害に詳しい病院を見つけるのが難しいときは、まず各都道府県に設置されている「発達障害者支援センター」や「精神保健福祉センター」などに相談すると良いでしょう。
■注意欠陥・多動症(ADHD)の人が向いている仕事は?
ADHDの特質により、働くことに自信を失っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、先述したようにADHDは脳の特性です。必ずしも障害ではなく、仕事上の強みに転ずることもあります。
・不注意性の強い人に向いている仕事
発想が豊かで、アイディアが豊富に浮かんでしまうため注意が散漫になっているとも考えられます。不注意性の強い人は、デザイナー、プログラマー、DTPオペレーター、モノづくりなどが向いている可能性があります。個人のペースで働くフリーランスも向いていますが、安定した収入になるまで下積みが必要となるでしょう。
・多動・衝動性が強い人に向いている職業
特定の場所に留まって作業をするよりも、行動力や好奇心を活かせる職業が向いていると言われています。
営業職、カメラマン、webライター、出版・マスコミ関係の仕事などが向いている可能性があります。しかし、対人折衝はつきものなので人間関係面での努力は必要となるでしょう。
・特定分野への関心が強い人に向いている職業
ADHDの人は、興味・関心のある分野には並々ならぬエネルギーを注げます。興味とマッチングする専門職に就けた場合、天職となるでしょう(例:芸術家、設計士、研究職など)。
しかし、興味が持てる分野は人によって異なりますし、好きなことで安定した生計を立てるのは簡単なことではありません。従って仕事を探す上では、ADHDの人が不得意なことを避けることが、より現実的であるでしょう。
・ADHDの人に向いていない仕事
人の命に関わるような失敗できない医療現場、乗り物の運転が必要な仕事、秘書の様にシビアなスケジュール調整が求められる仕事、経理・事務職のように正確な処理が求められる仕事は、ADHDの不注意特性と相性が悪いと考えられます。
もちろん例外もありますが、避ける方が無難でしょう。
■注意欠陥・多動症(ADHD)の人が働きやすい環境を作るための5つのコツ
ここでは働きやすい環境を作るためのポイントをいくつかご紹介します。
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とにかくメモを取る、チェックリスト化する
ケアレスミスや見落としが多いというADHDの方にオススメの対策です。
リスト化のコツは、できるだけ一つのノートや紙などにまとめることです。完了するたびに線を引いて消す習慣をつけましょう。
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持ち物は前日に用意する
遅刻しやすい、忘れものをして取りに戻ることが多いことがある場合にお勧めの対策です。
また、持ち物はできるだけ1つのバッグにまとめる習慣をつけましょう。バッグが複数あると、バッグごと忘れる可能性があります。
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相談できる人を作る
友人、同僚、話しやすい上司などはいますか?真面目な人ほど「自分は障害があるから」と深刻に考えすぎてしまうことがあります。思い詰め、周りに相談なく突然会社を辞めたことはありませんか。
深刻な時は自分を客観視することは難しいので、気の置けない友人、同僚などに相談し、客観的な意見をもらうようにしましょう。しかし、既に自分でどうにかできる状態ではない、相談できる人がいないと苦しんでいるのなら、発達障害者支援センターや精神保健福祉センターなど公的な相談機関などの窓口に相談してみてください。
あなたが使える制度や福祉サポートを紹介してくれます。対処法を明確にすることは、働きやすい環境づくりに役立つでしょう。
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休養が必要な時は休職を考える
特に責任感の強い方の場合、「自分は欠陥人間だ」「普通の人と同じように仕事をこなす自信がない」と自己否定的な気持ちを抱え、気づかないうちにうつ病や適応障害などの精神障害を患っている場合があります。これを「二次障害」と言います。
職場に行くのが苦痛で体に異変を感じたり、重苦しい気持ちが続いたりしていませんか。
兆候を感じるようなら一度病院にかかってみてください。「そうは言っても、会社の人に迷惑をかけられない」と思うかもしれませんが、二次障害が悪化するとさらに仕事に支障をきたすようになるので、早めの治療は周りの人のためであるのです。
休職などが必要な場合は医師の指示に従い会社に申し出て、回復期に入ってから復職準備を進めてくださいね。
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リワークプログラムを利用する
職場復帰に不安を感じる場合、リワークプログラムを活用するとよいでしょう。休職になった時の働き方や考え方を振り返ることで休職に至った要因を確認でき、復職した時に同じ状況(休職)に陥ることを防げます。
施設によって費用は変わりますが、自立支援制度の対象のため自己負担は軽減されます。こういった専門の支援機関では相談員がサポートしてくれますから、気軽に問い合わせてみてください。
■まとめ
ADHDは発達障害の一種で、ある特定のことには非常に優れた能力を発揮する一方、ある分野は苦手といった特徴がみられます。「不注意」による特徴と「多動性・衝動性」による特徴があり、興味のある分野と仕事がマッチングすれば才能を発揮しますが、正確さを求められるような緻密な仕事においては工夫が必要となるでしょう。
ADHDは生まれつきの脳の特性であり、病気ではありません。上手に付き合いながら自分にとって働きやすい環境整備を工夫していくこと、周りに相談できる人を作ることが大切です。