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精神疾患になっても安心して働くために役立つツール【認知行動療法】を知ろう

昨年からHSP(繊細さん)という生まれ持った気質が注目を集めていて、TVでも特集されました。有名人でいうと、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんがHSPを公表しています。HSPは5人に1人いると言われていますが、内気であったり、何事もマイナスに捉えてしまうため生きづらさを感じる傾向があります。

自分自身の考え方の癖に気づくことは通常なかなかありませんが、実は誰にでも「自動思考」  —物事の考え方・物事の捉え方の固有のパターンー  があります。

もしもこの自動的な思考パターンが自分自身を苦しめているのだとしたらどうでしょう?

認知行動療法は、自分の考え方や行動に気付き、心の苦痛・問題行動などを改善するための心理療法です。うつ病や不安障害などの治療としても、また精神障害には至らないものの、心にストレスを抱えている方が自分のメンタルケアに使うこともできるツールです。ここでは認知行動療法がどういったものかを解説していきます。

 

[目次]

■認知行動療法とは?

■認知行動療法のメリット・デメリット

■認知行動療法はどこで受けられる?

■認知行動療法とは?

認知行動療法とは、自分の考え方や受け取り方(=認知)に対して、また、自動的に取っている行動を見つめなおし、気持ちを楽にしたり、ストレスを軽減させる心理療法です。「認知療法」「行動療法」という別々に発展した治療法ですが、互いに重なる領域が増えてきたため、1990年代に総称して認知行動療法と呼ばれるようになりました。

 

・保険適用される認知行動療法

認知行動療法は医師や心理士といった専門家と本人で進めていくことができ、うつ病(気分障害)、社会不安障害、強迫性障害、不眠症、薬物依存症、摂食障害、心的外傷後ストレス障害、神経性過食症

の治療では16回を限度として保険適応されます。投薬治療だけでは改善が見られない時、認知行動療法と組み合わせることで治療成功率を高めると言われます。

 

その他不眠症、過敏性腸症候群など身体症状や、発達障害による対人関係の悩み、統合失調症の陽性症状(幻聴や妄想など)への対処、怒りのマネジメントなど幅広い問題に役立つツールだと言われています。

 

・認知行動療法は心理療法です

こちらが認知行動療法の基本的な考え方です。

 

①自分のストレスに気づいたら整理する

どんな場面でストレスを感じているのか?何が原因か?自分はどんな気分になるか?と自分のストレスについて整理します。

 

②自動思考が自分の感情や行動にどう影響しているのか整理する

何かに対して瞬間的に浮かぶ考え方の癖やイメージを「自動思考」と呼びます。自動思考が生まれると、それに従って自分の気持ちが動き、行動へとつながっていくので、これを整理します。

 

④自分の自動思考の歪み、現実とのズレに注目する。そしてバランスの取れた柔軟なものの見方に修正する練習をする

私たちは日ごろ主観的に物事をとらえています。それを柔軟でバランスの取れたものの見方に修正していきます。そして、「接するのを避ける→自分から話しかけに行く」などの様に問題解決や人間関係の向上に働きかけるような行動方法を見つけていきます。

 

 

・実際にどんな風にするの?

ここで事例を一つ上げてみましょう。

 

“Mさんは真面目な会社員で、少し内気な性格です。あるとき、Mさんは仕事でミスをしてしまいました。「自分はなんて駄目なんだ」と思うMさん(認知)。自分を責め、落ち込んでしまいました(感情)。Mさんはミスを上司に報告しました(行動)。「期待に応えられず、上司から嫌われただろう」と思うMさん(認知)。

上司はMさんに注意し、「こんな初歩的なミスをするなんて」と言いました。Mさんは、「怒られているから、きっと自分の評価は下がってしまったに違いない」と想像し(認知)、会社でますます発言できなくなりました(行動)。がっくりと落ち込み(感情)、夜が眠れなくなりました(身体)。疲れが取れず(身体)たまに会社に遅刻してしまうこともあります(行動)。“

 

認知・行動・感情・身体の反応が連鎖の様に関係しあっているのが分かります。

では、ここで認知と行動を修正してみましょう。

 

・Mさんは「自分はなんて駄目なんだ」と思う(認知)

→「初歩的なミスは誰だってするものだ。」と思う(認知の修正)

 

・「怒られているから、きっと自分の評価は下がってしまったに違いない」と思うMさん(認知)

→「上司が注意してくれるのは、自分に見込みがあると思ってくれているからだ」(認知の修正)

 

・Mさんは会社でますます発言できなくなりました(行動)。

→Mさんはより積極的に、自分が与えられている仕事に取り組みました(行動の修正)

 

感情と身体を変えるのは難しいので、この様に認知・行動の修正にフォーカスします。自動的になっている思考パターンに気付いて、バランスのとれた考えや行動に変えていくのです。

■認知行動療法のメリット・デメリット

認知行動療法は高く評価されていますが、心理治療という性質ゆえ人により合う・合わないがあります。参考にしてみてください。

 

①認知行動療法のメリット

・副作用がない

精神疾患の治療では薬物治療をすることが多いですが、治療が長期になると副作用を心配される方もいます。しかし認知行動療法には薬物治療にあるような副作用はありません。

ただ、これまで避けてきたトラウマなどに向き合い始めると、一時的に具合が悪くなったように感じることがあります。悪化したと勘違いして中断してしまうと、改善を自覚できるところまで治療することが出来ません。あわてず、相談し対処法を取り入れながら進めるようにしましょう。

 

・回復率が高い

イギリスの調査で、パニック障害や強迫性障害における治療の約7割で、薬物治療よりも高い効果が示されたという結果が出ています。そのため、イギリスではどちらの疾患の場合でも、認知行動療法が治療法として選択されることが多いと言われています。

 

・再発率が低く、予防効果が望める

追跡調査においても、認知行動療法は疾患の再発がしにくいという結果が出ています。自分を追い詰めたりストレスを感じるような捉え方をした思考や行動を変えていくことで、疾患の予防効果が期待できます。

うつ病や双極性障害、統合失調症、薬物依存症などは再発の可能性が高いので、認知行動療法は効果的でしょう。

 

②認知行動療法のデメリット

・短期的に効果が出ない

薬物治療と比較すると即効性があるわけではありません。また、個別の状況を紐解き気持ちを整理するという地道な作業になり、全体的な治療期間は3ヶ月~1年ほどと言われています。

体調にはリズムがあり、良いときもあれば悪いときもあります。本人の体調が悪いときに無理に行うと症状が悪化することもありますから、認知行動療法を行う側、受ける側ともに、焦らず治療を進めていくことが大切です。

 

・認知行動療法を行う側・受ける側の双方に信頼関係がないと成果が出づらい

認知行動療法は専門家と本人の二人三脚で進めていく治療法です。しかし、感じていることはあくまで本人にしか分からないため、本人が素直に自分の考えを話せないと、考え方の修正ができません。お互いがしっかりとした信頼関係を結んでおかないと正しい情報が得られず、治療自体がうまくいかないと言われています。

本人は自分の考えや思っていることを正確に伝えること、認知行動療法を行う側は本人の性格や考え方のパターン、癖などをきちんと見極めることが早期回復のカギになります。

 

・その他

一部の精神疾患には保険適用がされていない、地域によっては受けられる場所が少ない など

■認知行動療法はどこで受けられる?

ここでは認知行動療法を受けるられる場所を解説していきます。

 

①精神科や心療内科、認知行動療法センターなど

精神科や心療内科の主治医の判断により院内外の認知行動療法の専門家を紹介されることが多いようです。認知行動療法に関心がある場合には診察時に相談してみてください。

・医療機関で認知行動療法を受ける際の費用は?

保険診療か自由診療かによって費用が異なるので、詳しくは各医療機関に問い合わせてみてください。1回の面談につき3,000~8,000円と病院によって幅があります。認知行動療法を受けられるかについては、料金などと併せて、ホームページ等で情報を得たり、事前に問い合わせをしたりして確認してみましょう。

 

②障害者就労支援事業所・リワークセンターなど

精神障害者が働くための支援を実施している就労移行支援事業所でも認知行動療法を取り入れている所があります。そのほか、自立支援事業所や障害者職業センター(地域障害者職業センター)では、リワークの一環で認知行動療法がおこなわれています。

 

リワークとは、return to workの略語です。精神疾患を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を実施する機関で行われているプログラムです。復職支援プログラムや職場復帰支援プログラムともいいます。(引用:一般社団法人日本うつ病リワーク協会)

 

仕事に近い内容のオフィスワークや軽作業、復職後に精神疾患を再発しないための認知行動療法、SST、アサーションなどさまざまなプログラムが行われます。休職になった時の働き方や考え方を振り返り、自分の気質やコミュニケーションの傾向を認識しトレーニングで改善することで、適切な職場復帰と症状の再発を防止することが狙いです。

 

リワークプログラムは医療機関をはじめ、民間のリワーク施設、公的施設(障害者職業センターなど)で受けることができます。障害者手帳がなくてもサービスを受けられることもあるので、施設に問い合わせてみてください。

 

・リワークを受ける際の費用は?

民間のリワーク施設で障害福祉サービスとしてリワーク支援を行っている場合は、自己負担額は1日800円~2,000円で事業所によって異なります。ただし、ご自身の世帯収入に応じて月額上限が決められており、目安として、生活保護世帯や300万円以下の場合は0円、300万円~600万円の場合は9,300円、600万円超の場合は37,200円となっています。公的施設の場合は、費用はかかりません。

 

③自分で認知行動療法をする

認知行動療法は自分自身で取り組んでも治療効果があるとされています。

・自分の認知・行動パターンを記録することができ、視覚化できる認知行動療法アプリ

・セルフカウンセリングができるような書籍、ワークブック。

・認知行動療法を活用するウェブサイト

などがあり、考えのバランスを取り心を楽にするトレーニングを行うことができます。

精神疾患はなくとも日々ストレスを抱えている人が、心をセルフケアをするのにおすすめです。

■まとめ

私たちは人間関係や仕事など、大なり小なりストレスにさらされています。

認知行動療法は、自分の考え方や行動に気付き、心の苦痛・問題行動などを改善するための心理療法です。うつ病や不安障害などの治療としても、また精神障害には至らないものの、日々ストレスを抱えている方が自分のメンタルケアに使うこともできます。

うつ病や統合失調症などの精神疾患を持つ人が薬物治療と併用して行うことで高い治療効果があり、再発防止にもつながります。認知行動療法は医療機関や障害者就労支援事業所、または自分自身で取り組むことができます。自分に合った方法で、心を楽にするために活用してみてください。

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