「リワーク」というプログラムを耳にしたことはありますか?精神疾患を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を実施する機関で行われているプログラムです。
リワークを利用することで、企業や休職者にどのようなメリットがあるのでしょうか?
この記事では、リワークを利用することで得られるメリット、プログラム内容や、実際の雰囲気などを解説していきます。
[目次]
■リワークとは?
■具体的な内容は?リワークが向いていない人は?
■リワークのメリットは?企業編・休職者編
■リワークとは?
リワークとは、return to workの略語です。精神疾患を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を実施する機関で行われているプログラムで、復職支援プログラムや職場復帰支援プログラムともいいます。(引用:一般社団法人日本うつ病リワーク協会)
・リワークの対象者は?
うつ病や双極性障害などメンタルヘルス不調により現在休職中の方
職場復職したい意向があり、リワークプログラムに取り組む意志がある方
主治医や勤務先の同意があり、必要な時に連携可能できる状況の方
※精神障害者保健福祉手帳等を取得していることは条件とされていません。
・リワークをする意味は?
リワークの目的は主に3つあります。
①仕事復帰に向けた生活面のリハビリをする
②セルフケアや仕事のスキルを身に着ける
③病気になった理由を振り返り、認知トレーニングなどを用い再発防止する
以下、詳しく解説します。
①仕事復帰に向けた生活面のリハビリをする
休職期間が長期に渡ると、生活リズムの乱れや運動不足になることがよくあります。ですから、まずリワーク施設へ通所する(毎朝決まった時間に起きて通勤する)ことで生活リズムを取り戻します。安定して通所することができるようになったら、集中力やコミュニケーション能力など、復職に必要な能力を回復するトレーニングを行います。
②セルフケアや仕事のスキルを身に着ける
復職後も安定して長く働くために、セルフケアを学びます。
自分の病気や服用している薬に対する理解、そしてストレスへの対処法を身につけます。また、自身の疲れ具合やメンタルの状態を把握できるようにし、自己管理ができるよう訓練します。
③病気になった理由を振り返り、認知トレーニングなどを用い再発防止する
例えば、うつ病の再発率は60%といわれるように、精神疾患は再発しやすい傾向があります。治療が終わり復職しても、結局「病気が再発・再休職」する…という事例が起きやすいのです。
そこで、リワークプログラムには「なぜ精神的な不調に陥ってしまったか」を振り返り改善するためのプログラムが用意されています。認知行動療法などを用いて、精神疾患に至った原因となる思考パターンや行動パターンを見つめ、考え方や捉え方を前向きなものにする訓練をすることができます。
このプログラムを経ることで、仕事復帰を果たした後も同じ原因で精神的な不調を起こすことが少なくなります。
■具体的な内容は?リワークが向いていない人は?
実際のリワークプログラムの内容は施設により異なりますが、代表的なものには次のようなものがあります。
オフィスワーク(作業課題)
パソコンなどのオフィスワークを個人訓練します。復職後の仕事を想定したオフィスワークを行い、少しずつ集中力を回復し復職にむけ準備します。
認知行動療法
認知(思考・物事の受け取り方)の癖をつかみ、考え方のバランスを整えていく心理手順です。
物事や人の発言を必要以上に悲観的に捉え、行動が消極的になる…といった人にも効果的です。「自分の行動・思考パターン」に気付き、変えていくことは地道な作業となりますが、精神疾患の再発防止にとても効果的です。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)
SSTとは、「社会生活技能訓練」や「生活技能訓練」とも呼ばれる訓練です。対人関係や集団行動といった社会活動に必要なコミュニケーションスキルの他、お金の管理、健康管理など社会的活動の基礎力を身に着けることが目的です。ロールプレイやゲームなど、グループで協力しながら取り組みます。
キャリアデザイン
これまでのキャリアと自分の特質を棚卸しし、今後どのように働いていくかを設計し直します。休職中の人の中には、「バリバリ元の様に働きたい」「キャリアを大事にしたい」と高めの目標を設定する方がいます。仕事にやりがいを感じるのは素敵なことですが、自分の人生・健康と仕事のバランスを取ることも重要で、「働くこと・生きること」どちらも大切にすることで、復職後も無理なく安定し働き続けられるようになります。
ストレスマネジメント
ストレスマネジメントとは、自分のストレス状態に対処し上手に付き合う方法のことです。現代的な生活をしている以上、ストレスの原因から逃れることは現実的ではありませんから、ストレスに適切な対処をすること、ストレスと上手に付き合っていくことを身に着け、職場復帰に備えます。
ストレスマネジメントのやり方は、大きく分けて「セルフモニタリング(観察・記録)」と「ストレスコーピング(解決・解消・セルフケア)」の2段階に分かれます。
グループミーティング
様々なテーマについてグループで話あうというプログラムです。同じくメンタルヘルス不調により休職をしている人同士が集まって悩みや辛さを分かち合うことはとても勇気のいることですが、人の話を聴くことで自分では思いつかなかった気付きや解決の道を得ることができます。
以上は代表的なものになります。プログラムは各事業所によってそれぞれ異なります。アート表現や、ヨガ、書道、農業体験、料理など、利用者が興味を持って取り組めるプログラムを行っていることもあります。リワークを行っている事業所に見学に行き、自分に合った施設を選ぶとよいでしょう。
・リワークが向いていない人は?
ここまでリワークの内容を書いてきましたが、リワークが向いていない人はいるのでしょうか?
リワークのプログラムは集団で行うものが多く、また担当者のアドバイスを受けながら復職に向けて準備をしていきます。そのため、他の人と協力して活動をするのを敬遠する方や、自分なりのやり方で復職準備をしたいという方には向いていません。
リワークの期間は6ヶ月が目安になります。もちろん個人差があり、6ヶ月より短い場合も長い場合もありますが、数か月は職場復帰と再発防止のためのプログラムに取り組むことになります。ですから「すぐ復職したい」と思っている人にはあまりマッチしないでしょう。
■リワークのメリットは?企業編・休職者編
・リワークはどこで受けられる?
リワークは医療機関、地域障害者職業センター、障害福祉サービス事業所(自立訓練など)で受けることができます。復職支援という目的は同じですが、機関によって内容や雰囲気は異なります。
例えば、広島市西区横川にある事業所 ミライワークでは、自立訓練とリワークの2つを柱の事業としています。リワークでは、メンタルヘルス不調により休職している方向けに、再休職の予防・働き続けるためのスキルを身に着けてもらうことを目的に 様々なトレーニングを提供しています。
・リワークのメリットは?企業編・休職者編
リワークは企業側・休職者側にとって、それぞれどんなメリットがあるのでしょうか?以下、解説していきます。
・リワークを利用することで得られるメリット(企業側)
1.休職中の面接指導の効果を上げる
休職中、本人との面接ができない、または面接しても回復状況がつかめないといった悩みに対し、リワーク支援でのトレーニングの状況や面談の内容を、企業側に情報提供することができます。
2.復職判断に専門家の意見を聞ける
症状が和らぎ体力も回復してくると、休職者本人は「自分はもう復職できる」と思いがちです。しかし、そのまま復職してもすぐ仕事ができるほどの集中力・決断力が回復しているとは限りません。
企業側としても、「復職判断を見誤り同じ社員が再休職になった」という状況は防ぎたいもの。主治医以外に、リワークの専門家からの第2、第3の意見が聞けることは大きなメリットでしょう。
3.復帰後のサポートを受けることができる
メンタルヘルス不調は繰り返しやすいため、実は復職してからの面談やケアが重要になってきます。「メンタルヘルス不調を持つ社員との関わり方が難しい」と悩みを抱える企業と、社員の間に立ちスムーズな復職の支援をします。休日の通所や電話相談などにより復職された方を継続的に支援しますし、上司の方との面談も可能です。
4.大きなコストはかけにくい
ミライワークは、障害福祉サービスのため、企業側には費用がかかりません。
・リワークを利用することで得られるメリット(休職者側)
1.不安な気持ちに寄り添い、復職まで伴走してくれる人や仲間ができる
メンタルヘルス不調から休職した人は、「本当に復帰できるのだろうか」「自分はこれからやっていけるのだろうか」という不安を抱えていることが多いです。
ミライワークでは相談員が1ケース1ケース、真剣に寄り添い復職をサポートしています。
毎週30分の面談の時間を設けていますが、利用者様が話してくれることは仕事のみならず、家族との関係や今後についての不安など、多岐にわたります。復職までの長い準備期間、不安な時に誰かに話を聴いてもらうことは心の支えになりますし、特に責任感が強い人には「同じように不調を抱えているのは自分だけではない、一人で抱えなくてもいいのだ」と思えることが心の安らぎにつながるでしょう。
2.自分への理解が深まる
もともと企業で就労していた人は、実務スキルに大きな問題があるわけではありません。心理・コミュニケ―ションスキルが向上すれば、バランスを取りながら働いていける方がほとんどです。リワーク施設でグループワークや相談員と話をすることで、より自分への理解が深まりますし、一人では気づかなかった自分の思考の癖などに気付けます。
3.復職への道のりが明確になる
人により身に着けるべきスキルは違うので、個人にあったプログラムを行う必要があります。
体力や気力が低下している状態から、仕事の感覚を取り戻す、というゴールまでの道のりは、はじめは漠然としているように感じるかもしれません。担当の相談員が用意してくれたリワークのトレーニングを行うことでゴールまで安心して進めることは大きなメリットと言えるでしょう。
4.個人の負担額が低く、サービスを受けやすい
休職者の負担は、国民健康保険団体連合会の公費により、1割負担です。(1日約900円)。
ただ、公的機関などは費用の負担はなく、民間の機関の場合は年収に応じて変動があるなど、リワークの費用は機関により異なります。詳しくは見学時などに確認してみてください。
■まとめ
リワークは、企業側・休職者どちらにも大きなメリットがあります。リワークを提供している施設は様々ですから、自分にあった施設を見つけるために一度見学をしてみることをお勧めします。
スムーズな復職と、安心して長く働くための足掛かりにしてみてください。