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「自分で前にすすんでいくという決意。それを側で支えてくれる人がいるのがリワーク。」リワーク卒業生インタビュー

広島市西区横川にあるリワーク支援機関「ミライワーク」。

 

今回はミライワークでのリワーク活動を終了し 職場復帰された方のインタビューです。

■リワーク卒業生

おなまえ:カクさん

 

年齢:60代

症状:高次脳機能障害

 

休職前のご職業:専門職

復職後のご職業:サービス業・専門職(転職)

 

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■リワークを利用された期間は?

ミライワークを利用したのは半年ほどです。

私の場合、病気をしたこともあって元の会社を退職しました。そこで、前職の経験も活かして転職をしたいと思っていました。

しかし、高次脳機能障害で仕事に必要な記憶力・集中力が落ちていたため、それを克服し転職活動をすべくリワークに通うことにしました。

 

※高次脳機能障害…脳血管疾患や事故による脳の損傷等によって、注意力や記憶力、感情のコントロールなどの

能力に問題が生じ、そのために日常生活や社会生活が困難になる障害のこと。

 

■リワークを利用することになったきっかけは?

定年間際の59歳で 脳梗塞になったことが そもそもの始まりです。

ある朝起きて家族と会話をしたのですが、その時から上手く口が回らなかったんです。その時は「あれ?おかしいなあ」と思ったのですが、そのまま朝食を取り、会社に出勤しました。

そしてデスクに座って仕事をし始めたのですが…なぜだか呂律(ろれつ)が回らないんです。自分ではきちんと話しているつもりなのに。

そんな私を見て会社の同僚が「脳の異常かもしれないから病院で診てもらった方がいい!」と言ってくれ、脳神経外科に行ったら「脳梗塞です」と診断されたのです。

緊急入院して血栓を溶かす点滴治療をしてもらって事なきを得ました。

 

 

幸い、その時は後遺症が残ることもなく退院したんですが、程なくして脳梗塞が再発してしまったんです。

その時は、まるで目の前が真っ暗になったような気持ちでした。

丁度、60歳で定年退職の年。働くこともできませんから、会社はそのまま退職することにしました。

 

■どのような症状が残りましたか?

脳梗塞は、当たり所が悪ければ 失語や半身まひなどが出る病気ですが、幸いにも身体には麻痺は残りませんでした。

でも…「高次脳機能障害」という、それまで聞いたこともない名前の障害になったのです。

 

 

 

■高次脳機能障害でどのような困りごとがありましたか?

高次脳機能障害になると、脳に様々な障害が現れます。例えば私の場合、記憶力の低下が起こりました。《短期記憶》と言うのですが、一時的に記憶しておく脳のワーキングメモリーが著しく減少していたようです。

5桁の数字を見て記憶した後、今度は数字を逆から言ってみなさいと言われても、答えられない。その他、集中力や判断力が低下していました。

退院後、すぐに再就職は難しいだろうと考えたので、はじめは高次脳機能障害を持つ人向けの就労支援機関に

通うことにしました。支援機関に通ううち、自分の障害について嫌と言うほど思い知らされました。

 

前職は経理関係の仕事をしていたんです。でも、記憶力や注意力が低下していては、数字を扱う仕事はできません。その時は、心が折れそうになりました。

リハビリのプログラムに取り組めば取り組むほど、「出来ない」

現実が突き付けられる感覚。周りから「あなたは障害がある、だめな人間なんです」と否定されているようで、

本当につらかったです。

結局、その就労支援機関に通い続けるのが辛くなり、違う就労支援機関に通うことにしました。

 

 

■その就労支援機関ではどんなことに取り組んだのですか?

その機関では、自分でプログラムを決めて、取り組んでいくようなスタイルで私には合っていたと思います。ある人から、「天風録(中国新聞のコラム)を書き写していくと、記憶力や集中力を鍛えられるよ」と聞いたので、それをやり始めました。

毎朝事業所は9時からですから、朝行ったらまず書くんです。周りの人から何度も「何やってるの?」って聞かれましたが…気にせず書くんです(笑)

そのうち、「書き写すだけじゃ意味ないなぁ。覚えて書き出してみよう」と思うようになりました。いちど天風録を書写し、しばらく間を開けてから、記憶をもとに書き出すということにチャレンジし始めました。

 

一日も欠かさずやっていると…少しずつ、記憶力や集中力が戻ってきているようでした。

脳梗塞によってダメージを受けている脳の部位は再生することはありません。けれど、生きている脳の部位が、ダメージを受けている脳の機能をカバーしてくれるんだそうです。

 

■ミライワークを利用することにしたのは何故ですか?

就職活動についてサポートが欲しいということもあり、ミライワークを利用することにしました。

ミライワークは事業所の雰囲気も良かったし、利用者同士が和気あいあいとしている所も好印象でした。

 

事業所に通所することもトレーニングです。順序だてて行動する力を「遂行能力」と言います。

「〇時からのプログラムに参加するには、〇時〇分のバスに乗る必要があり、それには〇時〇分に家を出たらいい…と考えて、毎日通所することで遂行能力が鍛えられました。

 

■ミライワークで一番記憶に残っていることはなんでしょう?

午後からのグループワークです。

高次脳機能障害の特徴のひとつとして、「感情のコントロールが難しくなる」ことが挙げられるんですが、私も感情をコントロールできず、思ったことをそのまま人にぶつけてしまうことがありました。

グループワークで考え方の違う人と意見を交わす場面が出てきますが、私はそこで何度か失敗をしました。失敗し、反省し、相手方に素直に謝罪し、同じミスをしない様に気を付けました。

 

ある時、グループワークで失敗した私に、ある支援員さんが「カクさん、相手に、失礼なこと言ってしまいまし

たよね」と諭すように言ってくださったんです。はっとしました。

記憶力や集中力の低下について自覚はできていても、自分の感情コントロールの能力の低下については無自覚だったんです。認識できないから失敗してしまっていた。

それが、支援員さんの言葉でようやく、気づけた。こういうのは言ってもらわないと気づけないですよ。でも気づけたから、ああ、自分は言葉で人を嫌な気持ちにしてしまっていたんだ。ちゃんと謝らないと、って思えたんです。

 

 

再就職してからもコミュニケーションで失敗したことはもちろんあります。生きていれば、いろんなタイプの人に出会います。例えば、こちらは冗談と思って話しても相手が冗談として捉えていないこともあります。

でも、ミライワークのグループワークでの経験が活きていて、「あ、傷つけてしまった」と気づいたら、すぐに謝ることができるようになりました。

 

■転職活動はいかがでしたか。どんなタイミングではじめたのでしょう?

ミライワークに通所しだして半年ほどになり、「そろそろ働きたいなぁ」と考えるようになりました。

周りの人たちは「まだ体力なども追いつかないのでは」と心配していたように思います(笑)

ちょうど復職を考え始めたころ、とある小売業の求人を見つけたので応募をしました。

 

履歴書に、障害のことをどう書いたらいいんだろう?と分からずに悩んだりもしたので、支援員さんにアドバイスをもらいながら転職活動を進めました。ここ(ミライワークの事業所)で面接対策もしていただきましたよ。病気についても正直に書いて応募しました。

 

企業によっては障害について配慮してもらえる「障害者雇用枠」という採用枠もあります。でも私は障害者枠ではなく、一般雇用枠で応募しました。障害があるからと特別扱いされたくはないな、と思ったんです。

 

■現在はそちらの小売店に勤務されているんですね。

はい、採用してもらえて、早朝からの5時間勤務を続けています。体が慣れるまではやっぱり大変でした(笑)

でも、しばらくして仕事に慣れてくると、「午後から暇だな」と思うようになりまして。そこで、ご縁があった事務所で事務経理の補助として、ダブルワークで働き始めました。

 

午後からの仕事は内勤で、数字も扱いますから失敗できません。仕事内容としては、病気になる前に従事していた仕事に近いですが、高次脳機能障害で記憶力や集中力が低下しているという懸念はあったんです。

でも、さっきお伝えしたように天風録をコツコツ書き写したりと、時間をかけて鍛錬したことで、課題だった記憶力や注意力が向上してきているのでしょうね。集中力が途切れることもなく、頑張れていると思います。

■職場復帰に成功されたカクさんですが、障害を持ってから職場復帰するためには何が一番大切だと思われますか?

 

障害があるということであきらめずに、自分で努力して職場復帰するんだ、という「覚悟」ですかね。

一口に精神障害と言っても症状は人それぞれ。でも、自分の症状をしっかり受け止めて、付き合い方を覚えて、

乗り越えていかないといけません。

リワークの支援員も助けてくれるしプログラムも用意されていますが、職場復帰するんだって目的意識がしっかりしていないと、ただ通うだけになってしまいます。

そうなっては、いくら周囲の環境が整っていても活かすことができません。リワークを利用するにあたっての目的を、各々定めていく必要があると思います。

 

辛いことや苦しいことから逃げたい、あの人と話したくない、そんな壁は復職してからもやってきます。逃げればその時は楽だけど、逃げている限りまた同じ壁がやってくる。自分の力で超えないといけないんです。

だから、「復職してこんな人生を生きていきたい」、「自分は壁を越えてこんな人間になるんだ」という決意を持っているのが大切なんじゃないでしょうか。

 

とはいえ、通所する中で私自身「こんなことをしていて本当に職場復帰できるんだろうか…」と不安になることが何度もありました。そして、支援員さんがさりげなくかけてくれる声に何度も何度も助けられましたよ。

障害があるなか復職に向けて一人で戦っていくのは大変です。ここに来ると、誰かに会えて、相談に乗ってもらえる。

支えてもらえる。自分の力で壁は超えないといけないけど、一人じゃないんです。私にとって、リワークは本当にありがたい存在でしたね。

(取材日:2022年5月14日)

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