メンタルヘルス不調の方によくみられるのが、不眠の症状です。主治医から「よく眠れていますか」と聞かれ
ることも多いと思います。しかし、よく眠れている、よく眠れていないという基準とは何なのでしょう。また、「睡眠薬を飲み始めたらやめられなくなるのではないか」と、服用することへのためらいを感じている方もい
るかもしれません。睡眠と心の健康には密接な関係があります。
ここでは不眠症について解説していきます。症状には個人差があるので、詳しくは担当医を受診すべきですが、
この記事で不眠や受診への心配が軽くなり、一歩前に進めるようになることを願っています。
[目次]
■不眠症とは?不眠症の原因と 正しい睡眠とは
■睡眠薬はよくない?
■不眠症を改善するためのコツ
■不眠症とは?
不眠症とは睡眠障害の一種です。入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害などの睡眠問題が1ヶ月以上続き、
日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する病気です(厚労省)。
原因は神経質な性格、ストレスや不規則な生活、精神的要因としては うつ病、悩みや緊張から起こるストレス
の影響や、神経質で睡眠にもこだわりやすい性格などがあります。
心配事がある時や、重要なプレゼン、出張が翌日に控えている時など、さまざまな原因で不眠がおきることが
あります。通常ならば数日~数週間のうちにまた眠れるようになるものです。しかし、なかなか不眠が改善せず
1ヶ月以上にわたって続いている場合があり、これを不眠症といいます。
・不眠症には4種類ある
不眠症には「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」の4つがあります。
- 入眠障害(寝つきが悪い)
布団に入ってから入眠するまで30分~1時間以上かかる。精神的な問題を抱えている時や、不安や緊張が強い
時などに起こりやすい。
- 中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)
夜中に何度も目が覚め、一度起きた後なかなか寝つけない。
- 早朝覚醒(朝早く目覚めてしまう)
本来の起床時間より2時間以上前に目が覚めて、その後眠れない。
- 熟眠障害(ぐっすり眠れない)
ぐっすり眠れたという満足感が得られない。睡眠時に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」などが関係してい
ることがある。
・病院を受診すべき目安
上記のような症状が週に3日程度、一か月以上続いているようなら受診をした方がよいでしょう。
また、不眠症だと思って病院を受診してみたら実はうつ病だった、というケースも少なくありません。特に
〈早朝覚醒(朝起床するはずの数時間前から目が覚める)〉と〈日内変動(朝は無気力で夕方にかけて元気が
でてくる)〉の症状が同時に出ている場合、なるべく早めの受診をお勧めします。
・正しい睡眠とは?
正しい睡眠には「睡眠時間」「睡眠の質」「睡眠のリズム」の3つの指標があると言われています。
- 睡眠時間
適切な睡眠時間には個人差がありますが、専門家によると6~8時間が適正な睡眠時間だと言われています。
睡眠時間が6時間以下になると、うつ状態が出現しやすくなるなど精神への影響も指摘されています。
自身が適切な睡眠をとれているかどうかは、「日中の眠気」によって判断できます。自分では十分に睡眠をとっ
ていると思っていても日中眠気を感じる場合、慢性的な睡眠不足に陥っている可能性があります。
- 睡眠の質
夜中に睡眠が中断されたり、眠りが浅いと、睡眠の質が低下し日中に眠気を感じることがあります。
肥満気味の方は、「睡眠時無呼吸症候群」のため熟眠障害になっていることも。
- 睡眠のリズム
体内時計に基づき、規則正しく睡眠・覚醒を繰り返すことを「睡眠リズム」と言います。睡眠リズムが崩れると、ホルモンや体温調整など体の様々な調整機能が乱れ、身体的にも精神的にも大きな負荷がかかります。昼夜の
逆転や、海外渡航による時差ぼけ、日勤・夜勤のシフトの逆転などがあると、覚醒・就寝のリズムが乱れ、だるさ・疲れを感じやすくなります。
とはいえ、うつ病の療養中などで10時間以上眠っていた、起床したら昼を回っていた、ということもよくある
と思います。これは身心の疲労を回復させようとしている体の反応ですからあまり心配は要りません。「今日も
昼まで眠ってしまった…」などと自分を責めず、しっかりと身を休ませ、回復期に入ってから生活リズムを整え
ていきましょう。
■睡眠薬はよくない?
不眠の治療法として、まず思いつくのは睡眠薬(睡眠導入剤)だと思います。中には、“ 睡眠薬を飲み始めると
癖になるのではないか”と、ひと昔の睡眠薬のイメージを持ち服用にためらいを感じる方もいるようです。
しかし、現在一般的に使用されている睡眠薬は安全性が高く、癖になって量を増やさないとだんだん効かなく
なるということもほとんどありません。
ただし、 自分の勝手な判断で睡眠薬の服用を突然中止すると、服用前よりも不眠の症状が強まることがありま
す。眠れるようになったからと言って、勝手に減薬・断薬せず、必ず担当医に相談して下さい。
・睡眠薬代わりの寝酒は?
睡眠薬代わりに寝酒をしている、という方もいます。しかし、飲酒をした直後は眠気が起こるものの、数時間
後にはアルコールの作用で眠りが浅くなります。お酒には利尿作用もあるので、夜中にトイレに何度か起きて
しまうので、結果的に睡眠の質は低下してしまいます。
そして、睡眠薬と比べて寝酒は効果が薄れやすく、飲酒の量がどんどん増える傾向がありますから、睡眠薬が
わりの寝酒はお勧めできません。
また、睡眠薬とお酒を一緒に服用すると、ふらつきや記憶障害などの副作用が強く現れやすくなるので絶対に
止めてください。
■不眠症を改善するためのコツ
夜眠れないのは辛いですよね。ここでは睡眠薬以外の、不眠症を改善するためのセルフケア方をいくつか紹介
します。
一番大切なことは「眠れなかったけど、まあいいや」の精神です。なんでも完璧にしないと気が済まない人ほど、「〇〇時間眠れるようにならなければ」という思考になりがちです。睡眠時間が短いことが不安を招き、その
不安が交感神経優位の状態(=眠れない)にしてしまいます。ですから、「眠れなかったけど、まあいいや」
「自分にはこの睡眠時間で足りているのかも」などと捉えて、おおらかな気持ちでいましょう。
- できるだけ同じ時間に就寝・起床する
睡眠・覚醒のリズムは体内時計で調整されています。「寝だめ」や、昼寝のしすぎは体内時計を乱すので控え
ましょう。前日に十分に眠れなかったといって昼まで眠ってしまうと、今度は夜の寝つきが悪くなります。
早寝早起きと言いますが、実際は朝にきちんと起床することが夜早く眠くなることにつながるので、まずは決
まった時間に起きるところから取り組んでみてください。
- 朝の太陽の光を浴びる
特に、朝の太陽光の強い光には体内時計を調整する働きがあります。目に光が入ることで睡眠がリセットされ
脳が覚醒し、14時間目以降に再び眠気が生じてきます。早朝の光を浴びることで夜布団に入る時間も早くなり、
結果的に朝も早く起きられるというリズムを作ります。
- 昼寝は20分以内
昼寝をすると脳の疲れが取れます。昼寝をする場合は 12時半~14時半ごろまでに、20分程度がよいでしょう。
あまり長く昼寝の時間を取ると睡眠のリズムか崩れます。
- 睡眠にこだわりすぎない
必要な睡眠時間には個人差があるものです。ですから、「◯◯時間眠りたい」とこだわらないようにしてくだ
さい。
夜一人眠れずにいると、不安や心配などの気持ちが大きくなります。眠れないまま、イライラしながら布団の
中にいるのもよくありません。「布団の中=不快な場所」と脳にインプットされてしまい、夜がやってくるたび
に嫌な気持ちになってしまうからです。
もしも15~20分布団の中にいても寝付けない時は一旦布団から出て、小説を読んだり、温かい飲み物(ただ
しノンカフェイン)を飲んだりして一息つくと良いでしょう。ただ、画面からブルーライトの出る携帯やパソコ
ンは触らないようにしてくださいね。
- 自分なりのストレス解消法を見つける
ストレスは交感神経を優位にするため、体を緊張させ寝つきを悪くします。ですから、音楽・カラオケ・読書・
運動・手芸やアートなど、自分に合った趣味をみつけて気分を開放するようにしましょう。適度な肉体疲労は
心地よい眠りを誘発するので、体を動かすこともよいでしょう。
また、人間の体は夜になると体温が下がり、自然と眠りに入りやすくなります。ですから、お風呂が好きでも
寝る直前に熱めのお風呂に入らないようにしましょう。ちょっとぬるめのお風呂にゆっくり浸かると睡眠に入り
やすくなります。
■まとめ
不眠症には入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害の4つのタイプがあります。週3日、ひと月以上症状が出て
いるのなら、専門医を受診することをお勧めします。
不眠症を改善する方法として、「一定の時間に就寝・起床する」「朝の日の光を浴びる」などが挙げられますが、睡眠への強いこだわりを減らして「眠れなかったけど、まあいいか」とおおらかな気持ちでいるようにしましょう。
最近処方される睡眠薬は、ひと昔前のものと違い、副作用や依存性も軽くなっています。しかし勝手に服用を止
めると不眠症が悪化することもあるので、薬の服用については必ず医師の指示に従うようにしてください。
薬を服用しながら、決まった時間に起床する、朝日を見るなどのセルフケアを無理のない範囲で取り入れるよう
にしてみましょう。