これを読んでいる皆さんは、キャリアアップと聞いて何を思い浮かべますか?
「キャリア」とは、英語のcareerをそのまま片仮名にした言葉です。一般的には「仕事」「仕事の経歴」という意味で使われますが、日本では「キャリア組」など、エリート社員のような意味で使うこともあります。
キャリアアップとは、その仕事上のスキルや能力を高めていくことで、その結果が認められることで 昇進・昇給することだと言えます。
しかし、精神疾患のためキャリアアップが初めから難しい雇用形態で働いている場合もありますよね。
キャリアアップはなにも、昇進や昇給だけではありません。「新しい仕事にチャレンジする」「できる仕事の幅を広げていく」「今までできなかったことができるようになる」といったことも、広い意味においてはキャリアアップです。
今回は、メンタルヘルス不調を持ちながら「働くことにもっとやりがいを感じたい」「スキルアップしたい」と考えている人に向けて解説していきます。
[目次]
■精神障害があるとキャリアアップは難しい?
■多くの精神障害が仕事に求めていることは?
■休職中にスキルアップする
■精神障害があるとキャリアアップは難しい?
障害者雇用枠の仕事は、工場の製造業や清掃などのようなイメージで、なかなかキャリアアップは難しいのでは
ないだろうか?と思う方もいらっしゃるかもしれません。
ゼネラルパートナーズの障がい者総合研究所が報告している、400人以上の障害者を対象にアンケート調査した、
「障がい者のキャリアアップに関する調査 Report」(2016)という調査研究から障害者のキャリア意識と実態
を見てみましょう。
- 障害者雇用枠で就職した精神障害者の雇用形態で一番多いのはアルバイト
障害者雇用で就職した方、つまり身体障害者・精神障害者を合わせた回答者のうち、正社員の割合は26%でした。契約社員または嘱託社員の割合が最も多く45%、アルバイトが26%でした。
精神障害者に限ってみてみると、正社員の割合は15%とさらに減ります。契約社員または嘱託社員が32%、最も多かったのは46%でアルバイトでした。
回答していただいた精神障害者の75%がキャリアアップのない、契約社員(委託社員)・アルバイトであることがわかります。
- 役職のない 一般社員の割合が9割
障害者雇用枠で働く障害者はどの位の割合の方が役職についているのでしょうか。
同調査によると、回答者のうち92%が役職のない一般社員でした。年齢が若いせいで役職についていないのかもしれないと思われる方もいるかもしれませんが、年齢別でも20代…100%、30代…97%、40代…97%、50代…83%の障害者が一般社員であるという結果が出ています。
特に障害別では、身体障害者の91%が一般社員でしたが、精神障害者では98%でした。
- キャリアアップに関心がない理由の1位は、「あまり無理をしたくないため」
逆にキャリアアップに興味がない理由を調査すると、
・あまり無理をしたくないから
・責任が重くなることに不安を感じるから
・仕事よりもプライベートを重視したいから
という答えが上がりました。正社員として責任のある仕事に就くと、心理的にも負担が大きいため「無理をしたくない」、「プライベートの方が大切」だから役職に就かないことを選択しているのだと考えられます。
この調査から 障害者雇用で働く精神障害者のうち75%が非正規社員(契約社員・アルバイト)で、正社員で働く場合も ほとんどが役職のない一般社員であること、キャリアアップが難しいというより、もともと昇進・昇格のない(しづらい)職業についているというのが現状だと分かります。
しかし、何も昇給・昇格だけがキャリアアップではありません。
次の章では同調査をもとに、精神疾患の人がキャリアに求めるものを見ていきます。
■多くの精神障害が仕事に求めていることは?
- 障害者の約8割が、キャリアアップをすることに関心があり、特に「仕事の幅を
- 広げること」を重視している傾向が見られる
「キャリアアップすることに興味はありますか?」という質問に対して、「とてもある」と回答した方が45%、「まあまあある」と答えた方は35%ですから、合わせて8割の方がキャリアアップすることに関心があることが
分かります。
「今後のキャリアを考える上で最も優先順位が高いのは?」という質問に対しての回答は、
・仕事の幅が広がること…66%
・仕事の難度が高まること…11%
・昇進・昇格すること23%
という結果になりました。
“これまで経験したことのない仕事にチャレンジしたい”。“様々な仕事を通して誰かの
役に立ちたい” “新しくできることが増えるのは楽しい”というのが主な理由で(自由回答より)、仕事の幅を広げることを願っている方が多いようです。
しかし、
- 「現職または前職では、入社後に仕事の幅が広がりましたか?」の質問に対しては
・同じ会社の一般社員と比較して、広がった…24%
・同じ会社の一般社員と比較して、同等…24%
・同じ会社の一般社員と比較して、広がっていない…52%
- 「現職または前職では、入社時と比較して仕事の難度が高まったと思いますか?」の質問に対しては
・同じ会社の一般社員と比較して、高まった…26%
・同じ会社の一般社員と比較して、同等…29%
・同じ会社の一般社員と比較して、高まっていない…45%
と、現職・または前職での仕事内容の変化が乏しく、仕事のやりがい面では満足していない人が多いようです。
- 「現職または前職におけるご自身のキャリアへの満足度はいかがですか?」という質問に対しても
・とても満足している…6%
・まあまあ満足している…29%
・あまり満足していない…35%
・全く満足していない…30%
と、満足していないと答える人が65%で半数を上回っていました。
仕事の幅を広げたり、色々な仕事にチャレンジしたいと考えている障害者にとっては、業務の内容が単純作業・
軽作業に絞られるなどの障害者への配慮がかえって妨げに感じられるのかもしれません。
また、アンケートで「キャリアアップのためには能力開発に向けた勉強・資格取得が必要」だと半数の方が回答
している場面も見られました。
実際のところ、勉強や資格の取得がキャリアアップに直結するのかは一概には
言えないところですが、「学びたい」「能力を開発したい」という学習意欲の高さがうかがえます。
■休職中にキャリアアップする
・仕事について悩んでいる場合、障害者就労支援機関を利用してみてください
「自分に本当にあった仕事を見つけたい」といった悩みを持つ精神障害者の方は、障害者の就労を支援する
機関の利用をおすすめします。
もちろん精神障害があっても、これまでの職歴が十分にあり障害を十分カバーできれば、転職を機に自分の力で
キャリアアップをしていくことも可能でしょう。それでも、転職活動というものは精神的に負荷が大きくかかる
ものです。職業や職種についてのカウンセリングや転職活動のやりかた、就職した後の様々な相談ができるサポ
ーターがいるということは、転職活動において安心感につながります。
代表的な支援機関、福祉サービスには、障害者就業・生活支援センターや就労移行支援事業所、リワーク事業所
などがあります。
・リワークでは休職中に生活リズムを整えながら復職準備ができる
リワークとは、return to workの略語で、精神疾患を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けた
リハビリテーション(リワーク)を実施する機関で行われているプログラムです。
自己分析を自分一人でしていると、どうしても一方向での視点になってしまいます。自分で転職活動している
時も、友人や家族などの意見をぜひ参考にしていただきたいのですが、リワークを利用すると専門家と一緒に
今後のキャリアデザインを考える時間が持てます。
客観的に自分を知ることで企業とのマッチング率が上がり、職場に定着しやすくなるでしょう。仕事の幅を広げるようなスキルアッププログラムも実施しています。
「休職期間を活用して仕事の幅を広げていきたい」「仕事に生かせる新しい学びや訓練に取り組みたい」「長く働くための力を身に着けたい」と思う方にお勧めの機関です。
民間のリワーク施設で障害福祉サービスとしてリワーク支援を行っている場合は、自己負担額は1日800円~2,000円で事業所によって異なります。ただし、世帯収入に応じて月額上限が決められており、目安として、生活保護世帯や300万円以下の場合は0円、300万円~600万円の場合は9,300円、600万円超の
場合は37,200円となっています。公的施設の場合は、費用はかかりません。
リワークを利用して再就職した場合、利用しなかった場合より再休職率が低いことが明らかになっています。数か月という時間は必要になりますが、自己管理能力の向上とスキルアップも含めた転職準備をしっかりできるので、新しい職場で安定して長く働けることにつながるでしょう。
支援機関や福祉サービスは自分に合った場所を利用することが望ましいので、一度事前に見学をするようにしてみてくださいね。
■まとめ
障害者400人を対象にした「障がい者のキャリアアップに関する調査 Report」(2016)の調査をもとに、精神障害者の雇用の現状と、障害者が仕事に求めているものを見てきました。障害者雇用枠で働く精神障害者の多くが、現在昇格・昇進のしにくい雇用状況にあります。
しかし、「仕事のやりがいを増やす」という広い意味では 仕事に活かせる学びをして可能性を広げること、自己管理能力やコミュニケーション能力を高めて難しい仕事を任せてもらえるようになることで、結果的にキャリアアップにつながります。
転職・就職活動は自分一人ですると、どうしても視点が一方向になりがちです。「自分に本当にあった仕事に就きたい」「もっとやりがいのある仕事をしたい」と考える方は、障害者就労支援機関や福祉サービスを利用して視野を広げてみてください。自分にあったサービスを利用しながら、自分らしく・長く安定して働ける会社を見つける足掛かりにしてくださいね。