近年、「HSP」いわゆる“繊細さん”に関する本が出版され、ネットでも注目を集めています。
HSPとは、Highly Sensitive Personの頭文字をとった略称で、「生まれつきとても繊細な人」という意味です。「繊細すぎて傷つきやすい」「感受性が強すぎる」など、自分の気質のせいで生きづらさを感じて、「自分はHSPではないだろうか?」と考える人も増えています。
ここでは、HSPとは何か、その特徴、精神疾患との関連や対処法などについて解説していきます。
[目次]
■HSPとは?
■もしかしてHSPかも?HSPの特徴とは?
■病院に行くべきか? HSP自己診断で気を付けるべきこと
■HSPの人に向いている仕事、向いていない仕事
■HSPの人が長く働くコツ
■HSPとは?
HSPとは 米国の心理学者 エレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念です。神経が細やかで感受性が強い気質を生まれながらに持っている人のことです。全人口の15~20%、約5人に1人はHSPと考えられています。
人間は周囲の環境から様々な影響を24時間受けているのですが、その度合には個人差があります。
例えば、同じ光を見ても、まぶしい!と不快に感じる方もいれば、平気な方もいますよね。HSPを持つ方は環
境感受性が強いので、環境や周囲からの刺激を受けやすいのです。
ただ、HSPは精神医学での定義はなく、心理学用語です。
うつ病や統合失調症のように、精神医学での定義があるわけではないので、HSPを心療内科・精神科などで治療することはできません。
■もしかしてHSPかも?HSPの特徴とは
アーロン博士によると、HSPには「DOES(ダズ)」と名付けた4つの特性があるといいます。
【Depth of processing】考え方が複雑で、深く考えてから行動する特性
HSPは洞察力が高く、人よりも多くのことに気付くといいます。一を聞いて十のことを想像できるような特性があります。気になった情報、興味のあることについての探求心が強く、自分でとことん調べる傾向もあります。
何事もじっくり考える性格から、実際に行動に移すまで時間がかかることもあります。
生き方や哲学的なものごとに興味があり、その場しのぎの気晴らしや、浅い話、うわべだけの人間関係が嫌いだといいます。
【Overstimulation】刺激に敏感で疲れやすい特性
人の沢山いる場所、混雑している所、大きな音、騒音が苦手。友達と過ごす時間は楽しいものの、帰宅すると、気疲れしていると言われます。
人からの言動に傷つきやすい面があるため、人の些細な発言に傷つき、いつまでも忘れられないということがあります。
【Empathy and emotional responsiveness】人の気持ちに影響されやすい、共感しやすい特性
自分以外の人が怒られているのに、自分が怒られたかの様に感じてしまいます。他者との心理的な境界線が薄いので、人のちょっとした態度、声音などに敏感です。
人の思っていることを分かってあげられることは時に役立ちますが、過剰に同調して、相手の気分や考えに引きずられてしまうこともあります。
災害や事故などの報道を見ているうちに被害者の人の感覚に陥り何日か気分が滅入る…そんなこともあるかもしれません。
【Sensitivity to subtleties】あらゆる感覚がするどい特性
HSPの人は、周囲の人の放つ雰囲気をはじめ、音、光、におい、触感、気候の変化など五感で受ける微細な刺激に影響を受けやすいとされています。何に敏感になるかは人それぞれです。
近くにいる人の服の柔軟剤、タバコの臭い、口臭で気分が悪くなる人や、大きな音や強い光が苦手な人もいます。
アーロン博士は4つのうち1つでも当てはまらない人はHSPではない、と定義しています。
■病院に行くべきか?HSP自己診断で気を付けるべきこと
HSPは心理学上の概念であり、現在のところ医学的な疾患概念として確立していないため、医療機関でHSPの診断はできませんし、治療が行われることはありません。
ただし、生きづらさや 心身の不調が、仕事や日常生活に支障をきたすほど強いのであれば 医療機関を受診するようにしてください。というのも、その症状は実は精神疾患の症状である可能性もあるからです。
実際、HSPの特性と、発達障害や神経症で起きる症状の一部はとてもよく似ています。
そして自己診断でHSPだと思いこみ、 初期段階で対処する機会を逃すと、二次障害としてうつ病、不安障害、パニック障害など他の精神疾患へと発展する可能性も大いにあります。
インターネット上の「HSP自己診断」などで診断し、自分はHSPなのだ…と認識している方も多いようですが、インターネット上のHSP診断で使用されるチェック項目は心理学の専門家が作ったものではないケースも多く、根拠が乏しいと言わざるを得ませんから、あくまでも参考程度にとどめておくのがよいでしょう。
■HSPの人に向いている仕事、向いていない仕事
働くこと自体は好きなのに、環境から影響を受けやすいせいで仕事が上手くいかず自信をなくしたり、才能を活かせなかったりして悩んでいるHSPの方は多いです。
HSPの人に向いている仕事、向いていない仕事には、どのようなものがあるのでしょうか。
- HSPの方に向いていると言われる仕事
①正確さが求められる仕事
HSPの方は、正確さが求められる仕事に向いています。一つのことを極めたり、細かな作業を繰り返したりするような働き方はHSPの方の好む所でしょう。
スピードや作業効率を求められる仕事よりも、丁寧さが評価される環境で力を発揮する人が多いようです。
例えば…経理、事務、倉庫内作業、データ入力、校正、エンジニア
②モノづくり・クリエイティブ系の仕事
専門知識とスキルの習得が必要にはなりますが、鋭い感性を活かせ、個人のペースで仕事を進めていけるので、
HSPの人はクリエイティブ系の仕事も向いていると言われます。
例えば…グラフィックデザイナー、Webデザイナー、ライター、編集者、コピーライター、動画編集、カメラマン
③人との交流が少ない仕事
傷つきやすいHSPの方にとって、周囲の人と連携してする職場、大勢の人と関わる仕事は心理的な負担を感じやすいです。人との交流が少なく、個人で作業を進められる仕事が向いているでしょう。
例えば…ビル管理、警備員、清掃員、ドライバー(長距離運転、配達)
④人の体や心を癒す仕事
人の気持ちに敏感なHSPだからこそ、人を助けたり癒したりする仕事にやりがいを感じる…そんな方も少なくありません。ある程度経験を重ねた後に独立開業することも可能で、そうすれば個人のペースでのびのびと働くこともできますよね。
例:心理カウンセラー、臨床心理士、看護師、理学療法士、鍼灸師、マッサージ師、介護士、セラピスト、エステティシャン
⑤動物や自然と関わる仕事
感性豊かなHSPの人は、動物や植物に関わる仕事も向いています。
例えば…トリマー、ペットシッター、飼育員(動物園・水族館)、ペットショップ店員、獣医、農業・水産業・林業、花屋、フラワーコーディネーター
- HSPの方に向いていないと言われる仕事
一方、HSPの方にあまり向いていないと言われている仕事は次のようなものです。
- 人との関わり合いが多い環境での仕事
HSPの人は感受性が鋭く、些細なことで傷つきます。人間関係に疲れを感じやすいので、人との関わり合いが多い職場は苦手です。仕事はなんとかこなせても、家に帰るとぐったり、土日はずっと休んでいる…そんな方も多いでしょう。
例えば…接客、コールセンター、受付業務
- 上下関係が厳しい・ノルマが厳しい仕事
目標を達成できないと厳しく叱責されたり、周りの人が怒鳴られているような環境で働くのは心理的負担が大きく、HSPの方が長く働くことは難しいと思われます。
例えば…保険の営業、不動産の営業、外資系企業、社風が体育会系の企業
- スピード重視の仕事
常に忙しく、スピードを求められる仕事も心理的負担になりやすいと言われています。
例えば…料理人(厨房スタッフ)、飲食店のホールスタッフ、アニメーター、Sier、
■HSPの人が長く働くコツ
最後に、HSPの方が長く働くためのコツをご紹介します。
- 自分のストレスをコントロールする
自分のストレスに気付き、対処できるようになれば働くことの辛さが緩和します。
自分は何にストレスを感じやすいのか?どうしたらストレスの原因を解消できるか。そしてストレスを発散する方法は何か。こういったストレス対処法を「ストレスマネジメント」と言います。
仕事でのストレスは、その日のうちに発散するのが理想です。詳しくはこの記事を参考にしてみてください。
ストレスマネジメントの方法を学べばメンタルヘルス不調になりにくい理由
ポイント②相談できる人を作る
仕事には悩みや不満がつきものです。それを一人で抱え込んでしまうと、仕事に対する意欲や自信も失ってしまいます。ですから、気の置けない職場の同僚、家族や友人など、気を遣わず悩みを相談できる人を見つけましょう。
ポイント③苦手な人と無理に関わろうとしない
全ての人から好かれようとする必要はありません。苦手な相手とはできる限り接点を減らし、距離を保つことも大切です。職場の人間関係に悩む人は多いですが、「職場は仕事をしに行く場所だ」と割り切って、苦手な人とのコミュニケーションは最低限に留めておくことは、決して悪いことではありませんよ。
■まとめ
HSPはHighly Sensitive Personの頭文字をとった略称で、「生まれつきとても繊細な人」という意味です。
しかし、医学的な疾患概念として確立していないため、医療機関でHSPの治療はできません。しかし、HSPの症状と精神疾患で出る症状の一部は同じであるので、生活に支障がきたす程の生きづらさ・働きづらさを感じる場合は専門医の受診をおすすめします。
自分の気質を理解したうえで、自分が楽しい・興味を感じるような仕事を選んでいけると、イキイキと長く働くことができるでしょう。この記事が参考になれば幸いです。