もともと元気に働いていた方でも、ある日メンタルヘルス不調を患い休職・退職を余儀なくされることがあります。そんな時、多くの方がお金に対する不安を感じるのではないでしょうか。
長引く病気と治療費の問題は切り離せません。
生活保護は、病気などで働けなくなった人や、高齢や障害で生活が困難になった人を対象に設けられている公的な制度です。今回は生活保護の受給の条件と、受給することのメリット・デメリットについて解説していきます。
[目次]
■メンタルヘルス不調とお金の問題とは
■生活保護とは?生活保護を受給できる条件は?
■医療費と生活保護
■申請することのメリット・デメリットは?
■メンタルヘルス不調とお金の問題とは
メンタルヘルス不調になると、どのようなお金の問題が出てくるのでしょうか?
- 無職・休職が長引くことによって起こる無収入
主治医より休職して治療に専念することが必要と診断されると、休職して傷病手当をもらいながら生活することが多いでしょう。
傷病手当金が支給される期間は、最長1年6ヶ月です。支給される金額は、人によって異なりますが、支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3とされています。
すぐに無収入になるわけではありませんが、無職・休職が長引くと貯金を切り崩しながらの生活になます。そして、傷病手当は支給期間が終わるとストップしますから、治療が長引くとどうしてもお金の不安が出てきます。
- 医療費がかさむ
メンタルヘルス不調に対する治療は長期間にわたることが多いです。精神科や心療内科に通う治療費の他、休職前から体の病気を持っていたり、定期的に歯科などに通院していたりすれば治療費がかさみます。
- 収入が安定しない
精神障害者を積極的に採用する企業も増えています。
しかし、厚生労働省の調べによると、精神障害者においては 就職して3か月で約3割、1年ではおよそ半分の方が離職しており、職場定着率が低いというデータがあります(平成30年度 障害者の職業紹介状況等より)。
メンタルヘルスの不調は目には見えません。骨折や腰痛のような目に見える病気ではないため、職場に自分の病気の特性を理解してもらうことが難しい場合があります。
職場で周囲の人と良好なコミュニケーションが取れないことからトラブルに発展し、やむを得ず短い期間で転職をする。それを繰り返していると収入が安定せず、賃金自体もなかなか上がりません。
- 障害年金は 年金の未納期間があるともらえない場合も
障害年金とは、障害の状態になってしまった方に対して国が支給する返済不要のお金です。怪我や病気がもとで一定の障害状態になった方が支給対象になりますが、うつや統合失調症、双極性障害のようなメンタルヘルス不調の病気でも受給できる場合があります。
しかし受給には条件があり、年金を納めていない期間があると受給できないこともあり注意が必要です。
障害年金についてはこちらの記事をご覧ください。
【メンタルヘルス不調とお金の問題②】障害年金について解説
この様に、治療が長期化し無職の期間が長引くことで 生活費と病気の治療費の支払いが困難になってくる可能性があります。
メンタルヘルス不調で働けず、生活が困窮してしまった方が検討すべき最終的な選択肢に、「生活保護」制度があります。
■生活保護とは?
生活保護とは、日本国憲法第25条に基づいて健康で文化的な最低限度の生活を保障するために、経済的に困窮する人に対し国が給付を行う制度です。
病気やケガなどといった理由で働くことが出来ない人や、働けても収入が極端に少ない人を対象にしており、生活に困窮する人は誰でも申請することが可能です。
生活保護制度の原理と原則を定めた「生活保護法」に基づき、保護の必要性が認定された人に運用されます。
■生活保護の8種類の扶助
生活保護には8種類の扶助があり、給付条件を考慮した基準額が細かく規定されています。
これら8種類の扶助を組み合わせて支給が行われます。
- 生活扶助…食費・水光熱費・衣料費などの生活費にあてることができる現金給付
- 住宅扶助…住まいの賃料に相当する現金給付
- 教育扶助…義務教育のための必要な学用品を購入するための現金給付
- 医療扶助…医療サービスを受ける際、医療機関に支払われる給付
- 介護扶助…介護サービスを利用する際に、介護サービス業者に支払われる給付。介護券が発行し、介護サービスを受ける形で現物給付が行われます。
- 出産扶助…出産費用(実費)を支給
- 生業扶助…就労に必要な技能習得に係る費用。定められた範囲内で実費を支給します。就職のためのスーツの購入費や、小規模な自営業の設備費などが該当します。
- 葬祭扶助…生活保護を受給者が死亡した場合、葬祭・埋葬にかかる費用が葬祭を行う人に金銭給付されます。
■生活保護を受給できる条件は?
世帯の収入が「最低生活費」より少ない場合、最低生活費に対する不足分を生活保護として給付する形で行われます。
最低生活費は 生活保護基準で示されている世帯の構成人数などの条件を考慮し算出されます。上記の8種類の扶助を、受給者の必要に応じ組み合わせて、生活保護の支給が行われます。
最低生活費より収入の方が多い場合は「保護不要」と判定されるので、生活保護は給付されません。
また、生活保護を受給するためには大まかには下記のような条件があります。
・貯金・土地などの資産を持っていない
・病気やけがなど、何らかの理由で働くことができない
・利用できる公的な制度が他にないこと
・親族などから経済的支援を受けることができない
詳しくは、厚生労働省のHPでご確認ください。
■医療費と生活保護
生活保護の給付が始まると、国民健康保険の資格を失うと同時に、医療費は全額 「医療扶助」
でまかなわれます。
・医療扶助の利用方法は?
長期間通院するなどの持病があり、定期的に医療機関を診療する必要がある方が生活保護を受給する場合、生活保護の給付決定時に医療扶助が保護内容に含まれます。
医療券・調剤券を受給決定時に受けます。
一方、現在 生活保護を受給している人に医療扶助が新たに必要になる場合は、地域の福祉事務所で医療扶助の申請を行います。医療扶助の必要性が認められ医療扶助の給付が決定すると、医療券・調剤券を発行します。
■障害者加算される場合
医師から診断され、精神疾患を持つ人が病気の症状などで働くことができない場合、障害年金を受給できます。しかし、それだけでは生活費が不足することがあるかもしれません。
障害者手帳の交付を受けているか、障害年金を受給している場合で、一定以上の認定を受けている場合、生活扶助費に障害者加算が加算されます。
- 障害者加算の種類
障害者加算には、以下の種類があります。
・障害者加算…身体障害者手帳1級・2級・3級、国民年金法施行令別表における1級・2級に該当するなど
・重度障害者加算…重い障害のため常時介護を要している
・特別介護料…家族介護料(障害者を家族が介護する場合)、他人介護料(障害者に介護人をつけるための費用)
■生活保護を受給することのメリット・デメリットは?
以上、生活保護について解説してきました。
それでは、生活保護を受給することにどのようなメリット・デメリットがあるのでしょう?
実は、生活保護を受給することのデメリットも存在します。
生活保護を受ける際の条件として、持家や土地、車などの資産となるものは手放さなければなりません。また、家族と一緒に暮らしている場合は家族もすべて生活保護世帯となる必要があります。
持ち家がある場合、資産価値がとても低いという場合でない限り、手放す必要があります。
生活保護という制度は、自分と一緒に暮らしている家族のお金が底をついてしまったときに使う最終手段とも言える制度です。保護を受けている間は貯金をすることも資産を持つこともできません。
一方、最も大きなメリットは、医療費や生活の心配をしなくていいということでしょう。
うつ病や統合失調症をはじめ、精神疾患は継続的な治療をする必要があります。
休職・無職のため収入がストップしてしまったため、必要な薬や通院を減らすことは、治療上よくありません。仕事をしていない間も安定した収入が得られることは最大のメリットとなります。
また、生活保護の受給者は 自立訓練(生活訓練)などの福祉サービスを基本的に無償で利用することができます。
自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した日常生活や社会生活を送れるよう、生活能力の維持、向上のための訓練などを行う国が定めた障害者総合支援法指定の福祉サービスです。
自立した日常生活・社会生活に必要なスキルを向上する訓練をする場です。事業所により行われる訓練は異なるため、自分に合った事業所選びが重要です。
自立訓練(生活訓練)事業所 ミライワークでは、「生活リズム」「コミュニケーション能力の向上」「病気の再発予防」を軸にした訓練を提供しています。
自分にあった生き方、働き方を経験豊富な支援員と一緒に考えてみませんか?
- 生活保護を考える前に
メンタルヘルス不調になり、精神的に不安定になると物事をつい悲観的に考えてしまいがちです。生活保護は、本当に困窮したときに利用できることが保証されている最後のセーフティネットですから、困ったときには役所や福祉事務所に相談してください。
ですが、メンタルヘルス不調になった方への支援は他にいくつもあります。
傷病手当金、自立支援医療制度、障害年金、失業手当(雇用保険給付)、労災保険(労働が原因の病気の場合)、生活困窮者自立支援制度 など、生活保護に至る前段階の制度があります。
何の制度が使えるか分からないという方は、お住まいの自治体の 障害者福祉課に相談してみてください。
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■まとめ
生活保護とは、日本国憲法第25条に基づいて健康で文化的な最低限度の生活を保障するために、経済的に困窮する人に対し国が給付を行う制度です。
生活保護は本当に支援が必要な人だけを対象とする支援です。一般に審査が厳しく、需給の条件に合わなければ申請が却下される可能性があることもあります。また、生活保護を受ける際の条件として、持家や土地、車などの資産となるものは手放さなければならないというデメリットがあります。
生活保護に至る前段階の制度にも様々あります。何の制度が使えるか分からないという方は、お住まいの自治体の 障害者福祉課に早めに相談してみてください。