メンタルヘルスとは「心の健康状態」を表す言葉です。
職場におけるメンタルヘルス不調とは、うつ病や統合失調症などの精神障害に加え、ストレス・強い悩み・不安など、労働者の心身の健康に影響を与えるものを言います。今回はメンタルヘルス不調の方が働くことの不安を減らすために 使える支援制度について解説していきます。
[目次]
■職場でメンタルヘルス不調を抱える人は増えている
■メンタルヘルス不調の方が使える就労面での支援制度
■復職・転職を目指すための心構え
■職場でメンタルヘルス不調を抱える人は増えている
厚生労働省の平成28年の調査によると「現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は 59.5%」と半数以上で、同調査によると「過去1年間(平成27年11月1日~平成28年10月31日)にメンタルヘルス不調で連続1か月以上休業した労働者の割合は0.4%」。
つまり500人の社員がいる会社で考えてみると、2人がメンタルヘルス不調で休職していることになります。
メンタルヘルス不調になっている方は、「ストレス過多」の状態と言えます。
ハードな労働や職場にまつわる人間関係のストレスにさらされ続けると他の精神疾患の発症のリスクも上がります。疲れ切った心身をゆっくり休めるため、休職・退職という道を選ぶこともあるかと思います。
ですが、休職・退職すると「職場に戻ったとき、また再発しないだろうか…」「次の転職先が見つかるだろうか…」といった不安が湧いてくるかもしれません。そんな時に知っておくとよいのが、次にあげるような支援・福祉サービスです。
■メンタルヘルス不調の方が使える就労面の支援制度
- ハローワーク
職業相談や職業訓練、求人情報の提示といった就職支援が受けられる
ハローワークには障害者専用窓口があり、障害者向けの求人を探していることを告げると、その人にあった求人情報を紹介してくれます。
病気のことを開示するかどうかは多くの方が悩む所です。しかし開示することで職場から合理的配慮をしてもらえるなど メリットもあります。
詳しくはこちらをご覧ください。
精神疾患のことを職場に伝える?「オープン就労」「クローズ就労」とは
また、窓口で就職相談すると「どのように就職活動を進めたらよいか」など具体的な相談にも乗ってくれます。
- 就労移行支援事業所
障害がある人が一般企業へ就労・職場定着するためのトレーニングを提供する機関
職業訓練を受けながら一般企業への就職を目指す人を支援するのが「就労移行支援」です。就労支援事業所では様々なプログラムが用意されていて、他の利用者と一緒にビジネスマナーやパソコンスキルを向上するプログラムに取り組んでいきます。
就労移行支援を実施している 就労移行支援事業所は、原則として18歳から64歳までの障害者を持つ方が利用できます。メンタルヘルス不調ではうつ病、統合失調症、適応障害、不安障害、発達障害などをコントロールしながら、新しい職場に馴染めるようなトレーニングを受けます。
雰囲気は事業所によってさまざまですが、スクールの様に毎日通い、他の利用者と一緒にグループワークなども行います。
メンタルヘルス不調の症状もおかれている状況も利用者によって異なります。そのため、一人一人個別の支援計画を立てて就職に向けての準備を進めていきます。
実際の就職の準備として、企業内で実習(インターン)が行えるのも強みです。実習中に自分の特性(得意・不得意)なども把握しやすく、実際に就職活動をする際の履歴書・職務経歴書の作成、面接にも活かせることでしょう。
利用料金は多くの方は無料になりますが、前年度の収入に応じて自己負担が発生します。利用手続きには、市区町村の福祉窓口での利用申し込みが必要となりますが、まずは事業所に問い合わせ施設の見学をすることをお勧めします。
- 地域障害者職業センター
障害のある人に専門的な職業サービスを提供する公共の機関
地域障害者職業センターは全国各都道府県に最低ひとつずつ設置されています。ここでは、職場復帰に向けてのリハビリ(職リハリワーク)と定借支援を行っています。
専任の精神障害担当カウンセラーが配置され、主治医や関係者と連携しながら支援を実施します。
障害者就業・生活支援センターやハローワークとも密接に連携しています。センターの利用料は公的機関のため無料です。
- 障害者就業・生活支援センター
障害者の就業・衣食住を安定させ、自立した生活が行えるように支援する機関
「治療が長引きお金が不安」「働きたいけど体調が心配」「引きこもりがちで通院も難しくなってきた」など細かい不安に寄り添い、障害を持つ方の仕事と生活の両方をサポートする公的機関です。
先ほどの地域障害者職業センターと似ており、どちらも利用者の就業を支援するという点は同じです。
地域障害者職業センターは就労に特化した支援をしていますが、障害者就業・生活支援センターは障害者の就業と生活の安定のための一体的な支援を行います。
そのため、就労支援員と生活支援員が配置されています。利用料は公的機関のため無料です。
- 転職エージェント
障害にあわせた仕事の紹介、転職活動支援や職場との調整をするサービス
転職したい人と企業の橋渡しをする転職エージェントは人気ですが、障害者雇用を専門とする転職エージェントもあります。病気や障害を持つ求職者と、障害者の雇用を希望する企業側とをつなぎ互いのミスマッチを防ぐため 条件などの調整も間に立ってサポートしてくれます。
応募に必要な履歴書・職務経歴書の添削や、面接対策もあります。転職エージェントしか持っていない求人もあるので、ハローワークと併用するのもよいでしょう。
求職者は転職エージェントのサービスを無料で受けることができます。
- リワーク
メンタルヘルス不調で休職中の方が 社会復帰するためのリハビリを行う
メンタルヘルス不調を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を実施する機関で行われているプログラムです。
プログラムの内容は一人一人の課題に合わせて行われます。例えば、仕事に近い内容のオフィスワークや軽作業、復職後に精神疾患を再発しないための認知行動療法、SST、アサーションなどがあります。また、休職になった時の働き方や考え方を振り返り、自分の気質やコミュニケーションの傾向を認識しトレーニングすることができます。
メンタルヘルス不調は再発しやすいと言われています。しかし、病気に至るまでの考え方や行動の癖を自分で認識し、改善するリワークのプログラムを行うことで定着率が向上するというデータも出ています。
リワークプログラムは医療機関をはじめ、地域のリワークセンター、障害者支援センターなどで受けることができます。
多くの方は無料で利用できますが、前年度の収入に応じては自己負担が発生します。
・ジョブコーチ制度
障害のある人が自分の特性に合った仕事ができるよう、職場適応をサポートする
ジョブコーチは職場適応援助者とも呼ばれます。メンタルヘルス不調を持つ人が職場に適応できるように、付きそって支援をおこなったり、企業側にかけあって働きやすい環境を作る橋渡しをする人のことです。
障害者・企業のどちらからでも申し込むことはできますが、企業側からハローワークや障害者職業センターまで申し出を受けて始まることが多いです。
就労移行支援事業所にジョブコーチが在籍している場合は、職業訓練・就職活動・定着支援までを一貫してサポートしてくれます。
・就労定着支援
就労定着支援は2018年に始まった制度です。
定着支援はこれまでも、障害者就業・生活支援センターや就労移行支援事業所が行っていました。
しかし、障害を持ちながら企業で働く方が増加している中、就労にまつわるさまざまな課題を解決する需要も高まってきたため、独立した福祉サービスとして実施されることになりました。
対象は、就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労移行支援、生活介護、自立訓練サービスを経て一般就労をした方です。利用期間は上限3年間まで。
就職後の半年間は、就労移行支援事業所や就労継続支援事業所といった、それまでに利用した事業所による職場定着支援が行われます。その後最大3年間が、就労定着支援の期間です。
就職したものの、「仕事でミスが多く困っている」「職場の人とうまくコミュニケーションが取れない」「体調管理がうまくいっていない」などの悩みで困っていませんか。
そんな方々に個別面談をし、アドバイスや勤務先への訪問、医療機関との連携を図り、働きやすい環境を作るサポートをします。
■復職・転職を目指すための心構え
メンタルヘルス不調で休職・退職した方は、働いていた頃より収入も減少するので、「早く仕事をしないと…」と焦ってしまいがちです。
しかし、まず治療を優先し、体をゆっくり休めることが大事です。転職や職場復帰を考えられるような状態になってから、主治医に申し出て活動を始めるようにしてください。
金銭面で受けられる支援制度もあります。詳しくはこちらをご覧ください。
【メンタルヘルス不調とお金の問題①】使える8つの経済支援を解説
そして、メンタルが回復してきたら休職・退職に至ったときのことを振り返り、対処法を考えましょう。
一人で抱え込まないことも大切です。メンタルヘルス不調の方を支えるための支援制度は沢山あります。
小さな悩みや不安でも、相談することで前に進んでいけることもあると思います。自分の状態に応じて支援機関を選び、活用していってください。
■まとめ
メンタルヘルス不調になり、療養のために休職・退職した際に使える制度をご紹介してきました。
現在、様々な金銭面・就労面の支援がありますから、少しでも心配や不安を感じるときには相談窓口を訪ねてみてくださいね。これを読まれている方の復職・再就職の成功を心から願っています。